春の闇に連れ去らレ

キッチンに持っていくと「絲ちゃん、酒蒸し食べたーい」と麻の声が聞こえる。「牛すじ」「日本酒なら刺し身だろ」シュウと緤。

「うちに貝がいません」
「潮干狩り行きたくねえっすか」
「今から狩ってこいよ麻」
「密漁で捕まらないようにな」

いや、麻なら別の意味で職質されそう。

冷蔵庫を開けるけれど、刺し身もないし、もちろん牛すじ肉もない。

「昨日のあまりのコロッケしかないです」
「ころころころっけー」

麻が謎の歌を歌い、部屋の中がしんとする。いや、麻の歌だけ流れている。

「……買ってきます、けどもう遅いので良いものは期待しないでくださいね」

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