消えた卒業式とヒーローの叫び

「あ、お姉ちゃん! 席見つけたの?」

 聞きなれた優しい音に、私は顔を上げて振り返る。いつだって彼女は私の救世主だった。現れた時の安心感といったら。私は思わず彼女につられて笑みを零す。

「うん、丁度空いたから」

「良かった! さっき赤ちゃんの泣き声が聞こえたから来てみたら、お姉ちゃんが居たからびっくりして。あ、先輩たちも呼ばないと!」

 日彩は狭い道をスキップするように軽々と通り抜けていく。その度に、左右に揺れるポニーテールが、彼女の感情をそのまま表しているように見えて仕方がなかった。

 椅子を引き、腰を下ろすと、タイミングが良いのか悪いのか、上原くんが目の前に現れる。

「あ、永遠。席取ってくれたんだ、ありがとう」

 閉じられた口の中で「うん」と呟く。周りの声に、私の咲きかけた蕾を潰されることなど分かりきっていた。

 上原くんは何も言わず、向かいのソファーに座る。二人の間だけ、時空が歪んだように気まずい空気が渦巻いていた。

 私は膝の上に乗せた荷物を、半分抱えるような体制で、真っ白な机を見つめる。

「なあ、あれどう思った?」

 突然、声が降ってきた。その反射で「え?」と喉が鳴る。黒縁眼鏡のレンズの向こうに、私を掴む眼があった。

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