だれよりも近くて遠い君へ
「春、おはよう」

「おはようございます」

私はいつもと変わらず、笑顔で返す。
大嫌いな名前、大嫌いな春、だけど笑顔で返す。
だって、そうしないとダメってしってるからね。
相手に嫌な思いさせちゃうから。

この人がお母さんだったら、こんなこと思わなかったのかもって密かに思ってるのも、誰にも内緒。
お母さんの妹の、凪沙さんと2年間一緒に過ごしている。
すごく優しくて、嫌いじゃないけど、どこまで近づいていいものか分からないから、曖昧にしておくのがきっと、どちらにとってもいいはず。 

「早くご飯食べちゃわないと学校遅れちゃうんじゃないのー?」

「あっ、ごめんね。すぐに食べるから!」

「いいのいいの、落ち着いて食べな」

ふふっと柔らかく笑ってくれる、この笑顔ちょっと好きだなぁって思う。
 
「ご馳走さまでした!おいしかったよ、行ってきます!!」

ちゃんと目を見てお礼を言う。
これ常識だよね。ありがとうと、ごめんなさい、お願いしますと、挨拶とか、人として当然のことだし。

ドアを開けると、少し気分が悪くなる。
体調不良じゃなくて、気持ちがムカムカするほうね。

「遅いんだよ。行くぞ」

「だから、来なくていいって言ってんじゃんか、しつこいんだけど」

前言撤回、ムカムカじゃなくて、イライラかも。
ちっさい頃から一緒の、幼なじみでも、イライラすることぐらいあるんだけど。
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