羽を失くした天使 ~祐一の場合

一度 麻里絵の生理が 遅れたことがあった。

「祐一君 どうしよう。もしかして 赤ちゃんだったら。」

麻里絵は 泣きべそをかいて 俺を見る。


妊娠には 気をつけていたけど。

絶対の 自信は なかったから。


「大丈夫。そうなったら 産めばいいんだから。」

「えっ。産めないよ。まだ 大学 3年もあるんだよ。」

「学校止めて 働くから。まりと赤ちゃんくらい 養ってやるよ。」

「でも 親に 怒られるよ。勘当されるかもしれない。」

「勘当されたって いいよ。まりがいれば。」

その時 俺は 心から そう思った。


人並に 大学を出て 就職する人生よりも

今 学校を止めて 麻里絵と結婚して。

若いパパとママになって 子供を育てる人生。

それも 悪くない… むしろ 良いかも。


そんな風に 思うくらい 麻里絵を愛していた。

「まりは イヤなの?子供 産みたくないの?」

「私は 産みたいよ。もし 出来てたら。私のお腹に いるんだよ。でも 祐一君の 人生を 狂わせちゃうでしょ?」

涙を浮かべて言う麻里絵を 俺は 心から 愛しいと思った。


「もし ここにいるなら 俺だって 親だよ。」

俺は 麻里絵のお腹を そっと撫でる。

「祐一君…」

麻里絵は 俯いて 涙を流した。


結局 その後で 生理は来て。

何もなく 済んだけど。


全部 捨てられるくらい 俺達は 愛し合っていた。






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