電話のあなたは存じておりません!
 実はずっと気になっていた事だ。

 たまたま掛けた佐藤さんへの電話が、実習生時代の教え子、

更に言えば仕事上繋がりのある会社の社員へ掛かったというのは、偶然にしても出来すぎている。

 私はそう睨んでいた。

 私の声の特徴や部屋を満たす音楽から、私だと断定付けたのもやはり違和感がある。

「相変わらず……。絶妙な所を突いてくるね?」

 来栖さんは困ったように肩をすくめた。

「芹澤さんが予想する通り、あの電話は間違いじゃない。俺は最初からキミだと知って掛けた」

 テーブルの上で両手を組んだ彼が観念したように妖しく笑う。彼の人称がいつもの"僕"から"俺"に変わったのに、たじろいでしまう。

 この人は……私にとっての敵か味方か。僅かな警戒心が働いた。

「……どうして、ですか?」

「単純だよ。キミと話がしたかった」

「……え」

 ーー何で私なんかと。

 第一、私の電話番号をどうやって知ったのだろう?

 私は怪訝に眉を寄せる。その仕草を見て、「やっぱり不審だよね」と来栖さんが笑顔で続けた。

「進藤 和希は高校時代の同級生で仲が良いんだ」

「……和希……?」

「ああ。時々二人で飲む事もある」
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