続・電話のあなたは存じておりません！

　或叶さんだけは嫌だ、もうこんなに好きなのに、あの人だけは失いたくない……！

　奥歯にグッと力を入れて唇を噛みしめると、口内に痛みが走り、滲んだ血が唾液と混ざって鉄のような味がした。

　あの女の人は誰なんだろう？

　或叶さんの向かいに座った小柄で綺麗な女性を思い出し、また胸が締め付けられた。

　パステルカラーの黄色いワンピースを着た髪の長い女の人だった。

　女性らしい仕草で柔らかく笑い、或叶さんを見つめていた。

　私の或叶さんを……。

　その時、グウ、とお腹が鳴った。

　ーー最悪。こんな時にでもお腹はすくんだ。

　和希に捨てられた時は全くそんな事無かったのに。

　私はもう何度ももらしたため息をついて、部屋の電気を点けた。

　一度洗面所へ行き、冷水で顔を洗う。

　目は哀れな程に赤くなり、僅かに腫れていた。

　ーー明日からまた仕事なのに、ほんと最悪……。

　ふと、軽快な音楽が耳に飛び込み、スマホが鳴っていると気付いた。

　時刻は六時半を少し過ぎたところだ。

　ーーだれ？

　鞄に入れっぱなしのスマホを取り出し、手帳タイプのケースを開く。

　＂来栖 或叶＂

　その名前を見て、心臓がまた小刻みに震え出した。