続・電話のあなたは存じておりません!
 私が或叶さんは渡さないと憤慨したように、瑞穂さんは私に対して言いようのない怒りを感じていたはずだ。

 或叶さんに宥められて訴えないと約束したにしても、私に釘を刺すという建前で文句を言うぐらいは許されると判断したのだろう。

「お疲れ」と言い残し、私は自宅への帰路を辿った。

 駅まで歩き、電車に揺られながら彼の事をずっと考えていた。

 思えば或叶さんにキスマークの事を告げた時、彼は「大丈夫」と言って私の頭を撫でてくれた。

 ーー「大丈夫だから」

 あの言葉の意味は、"芹澤さんが心配する事は何ひとつない"、"問題は解決したから大丈夫"ーーーそういう意味だったのかもしれない。

 電車の窓から見える点々とした灯りを見つめ、若干ながら涙の滲む気配がした。

 *

 翌日。仕事上がりにデートをした時、私は彼に瑞穂さんが来たことを言った。

 食事をして自宅マンションまで送って貰ってから、ようやく切り出せた。

「……えっ」

 或叶さんは目を大きくして驚き、言葉をつまらせた。

「参ったな……。彼女にはくれぐれも会いに行かないようにって、お願いしたんだけどな」

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