予備校前で会いましょう
傘を盗まれた。
それに気づいて、わたしは真っ白な怒りに震えた。

去年も梅雨時に盗まれたのだ。この予備校の「高2期末対策集中講座」の受講中に。
おばあちゃんに買ってもらった、千鳥格子柄の傘。
悔しくて、納得できなくて、おばあちゃんにも言えなくて、わんわん泣いた。
それと引き換えに手に入れたシックな浅葱《あさぎ》色の傘を、今度こそはなくすまいと大事に大事に使っていたのに。

諦めきれず、わたしは予備校の傘立てにささっている傘を1本1本引き抜いては確かめた。
悔しい。悔しい。悔しい。
レインブーツの爪先を、雨粒に混じって涙がはじいた。
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