予備校前で会いましょう
雨の中を、ゆっくりと近づいてくる浅葱色と、東高の制服。
わたしは武者震いした。
傘は、予想よりずっと高い位置に差しかけられている。
年下と知ってなんとなく自分より背が低いひとをイメージしていたけど、相手は男子なのだ。さもありなん。

千種公仁は、耳にイヤホンを差していた。白いコードがシャープな顎の前に垂れている。
校舎の入口まで来ると、ちらりとこちらを一瞥《いちべつ》し、わたしの傘を畳んでぶるぶる振り始めた。
そのイヤホンを耳からむしり取りたい衝動に駆られながら、わたしは腹に力を入れて声を出した。
「……ちょっと」
千種公仁は動きを止めてこちらを見た。
耳からイヤホンを外す緩慢《かんまん》な手つきを、わたしは怒りに震えながら見ていた。
体中から強気をかき集め、憎き相手を見据える。
「それ、わたしの傘なんですけど」
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