マシュマロベイビー


「今日…楽しかったね」



紅葉(くれは)が言った。





「ん。」



そだな。って言うみたいに



短く(そう)が答える。



海を横目に歩く2人のあいだを



湿った潮風が時折り通り抜けていく。



シャワーでサッパリした肌が



まだ、あの海の感触を思い出してる。



「あ、あの。


わたし、最初会ったとき



言ったこと…なんだけど」



紅葉が言葉を紡ぐ(つむぐ)



ほんとは、いつもなら



こんなに素直に



言える気しないけど



今日は疲れた身体が、




変なプライドを押さえちゃって




紅葉の欲求を後押しする。




自分も




みんなと  トモダチ  になりたいって。



奏が紅葉の方を向いた。



「何だっけ?」



「えっ?



覚え、てないの?」




「?



何だっけ?」



ほんとに覚えてない様子の奏。




「…そ、そうなの?」



じゃあ…



なのに、何で



そんな、



わたしだけ



嫌うの?



「そ、奏ちゃ」



言いかける紅葉に



「〝奏ちゃん〝って」



苦笑いで



拒否するような奏の言葉。



紅葉の胸は何だかズキンって



痛んだ。



だけど、頑張って



ドキドキしながら




「いいじゃん。呼んだって」



コウタくんや、萌みたいに



「…トモダチなんだし」



何でもない風に言ったつもりだけど



ほんとはすごく



怯えてるみたいに



ドキドキした。



奏が少し黙った後



「ムリ」



抑揚のこもらない声で言った。



え?



思わず奏を見る紅葉に



「だって、おれ



お前とトモダチになりたくねぇもん。」



は?



そんな奏の直球に



紅葉は傷ついた顔が隠せなくて



無防備な心をバンって



押されたみたいに



涙が出そうになった…。



慌てて下を向いた紅葉だけど。



そんな紅葉に奏は、びっくりした顔した。



そして、



「待て。



ちょっと待て。」



何を待つのかわからないけど



手のひらを紅葉に向けて



思いのほか、焦った様子の奏。



「ちょっとコイツ借りる」



急に



奏が前を行く萌たちに声かけた。



奏が紅葉の腕をとって



連れて行こうとする。




「や、離し」



わけわからず、あらがおうとする紅葉に




「ムリ。」



勝手な奏の手は力強くて




熱くて



えええー



え?ってびっくり顔の萌たちと



別れて



強制連行される紅葉。



< 43 / 127 >

この作品をシェア

pagetop