諦めた心

夜になり
兄の日和が帰宅した。

「ただいま、母さん。
あっ、一華。」
と、言うと同時に
私は日和の腕の中。

そう、兄の日和は
妹を溺愛する
腕利きの弁護士だ。

「ちょ、ちょっと
お兄ちゃん、はなっ、離して。」
と、ドタバタと暴れる私を無視する
兄に
「日和、離してあげなさい。」
と、母さんから言われて
「ちぇっ」
と、言いながら
腕は解くが、
私から離れない兄に
母さんがせっかく作った
夕飯を食べる用に言うと
手を引かれてダイニングテーブルに
連れていかれる。

兄が食べるのをみていると
母さんが、コーヒーを
差し出してくれた。
「母さん、ごめんなさい。
仕事していたのでは?」
と、言う私に
「ううん、大丈夫よ。
急ぎではないから」
と、答えた母は、
有名な書道家で
母の作品を欲しいと言う方が
後をたたない。

母も兄も
私が話を切り出すのを待っている。

二人だからこそ
わかるのだと思うが······

「二人とも疲れているのに
ごめんなさい。
少しだけ話を聞いてくれる?」
と、二人に言うと
二人は、頷きながら
ダイニングテーブルについた。

「私、旭と離婚しようと思うの。
旭には、沢山支えてもらった。
あの当時の私を
自分自身も諦めていた私を
本当に助けてもらったと
思っている。
もう、私は大丈夫だから
大丈夫になったから
旭を私から解放してあげようと思うの。」
と、私が言うと
母さんは、
「一華が思うようにしなさい。
それから、何時からでも良いから
ここに帰ってきなさい。」
と、言ってくれた。

だが、兄の日和は下を向いて
黙っていた。
「ひな、お兄ちゃん?」
と、しびれを切らして
声をかけると。
「確かに、確かに旭に
助けてもらったと思う
だがな、それとこれは違う」
と、言った。

あ~、日和は、やはり知っているのか
と、思ったが。

「うん、そうかも知れないけど
ボロボロの私じゃ
仕事をするだけが精一杯で
ろくに家の事も出来ないしね。
ちゃんとした女性が
誰でも良いでしょ。」
と、言うと

母は、涙を流し
兄は、“ ドン ” とテーブルを
叩いた。

「母さん、ごめんね。
泣かせるつもりじゃ···なかったのに
お兄ちゃんも。

それで私からは
金銭の要求とかないの。

夫婦の財産は折半にして
もらっていいから
住んでいるマンションのものは
なにもいらないから
私の衣類と必要なものだけを
持ち出したいの。
その内容で
お願いしてもよい?」
と、言って
離婚届を出した

私の欄は記入している
保証の欄は、
母さんが記入してくれた。

兄は、私からの依頼を頷いて
受けてくれた。

「ありがとう。
少し、疲れちゃったから
先に眠らせてもらうね。」
と、言って
小さいときから
ずっと使っていた部屋に行く

母さんがいつも
綺麗にしてくれている。
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