お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~

 食事に行くという雰囲気でもなくなったなと思っていたら、拓海の方から「食事はやめて、家でデリバリーでも頼もう」と言い出した。


 帰りの車内は、ずっと静かだった。

 窓の外を眺めながら、聖司さんに言われたことが頭を回る。

 教室を再開するならば協力すると、聖司さんは言ってくれた。私は、また囲碁の世界に戻りたいの? 自問自答を繰り返した。


 浮かぶのは、今日指導した男の子の顔だった。

 彼はきっと、褒めれば褒めるほど伸びるタイプだ。そして実戦を積むことによって相手の戦法を吸収し、どんどん強くなるだろう。いつかまたあの子と、対戦してみたいな。

 頼まれてもいないのに、気がつけば彼への指導方法を考えている。やはり私は、囲碁を通して人と関わることが好きなのだ。


 もう一度教室を始めるとして、仕事は? 無事教室を始められたとしても、きっと軌道には乗るまでに時間がかかる。できるなら、今の仕事は辞めたくない。

 でも、そんなわがまま、拓海はともかく、祖父江のお義父さまやお義母さまはなんて思うだろう?

 ただでさえ、祖父江の嫁として大したこともできていないのに、さらに囲碁教室も開こうだなんて、果たして認めてもらえるんだろうか。


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