お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
「拓海、どうかした?」

 やっぱり、少し変だ。聖司さんに色々言われたことを気にしているんだろうか。

「夏美は……。いや、なんでもない」

 絞り出すような声で拓海が言う。

「夕食、それでいいよ。俺も一緒に作る」

「えっ、いいの?」

 拓海こそ疲れてるだろうに、いいのかな。

「どんなことでもいいから、夏美と一緒にやりたいんだ」

 一緒にいられるのは、今だけだから。拓海がそんな言葉を呑みこんだような気がして、たまらなくなる。

「……うん、わかった」

「俺はなにすればいい?」

 言ったそばからシャツの袖をまくって、私の隣に立つ。料理する気満々だ。

「じゃあ、茄子とオクラのレンジ蒸しを作るから、食べやすいように切ってくれる?」

「いいね。今日は暑かったから、さっぱりしてて美味そう」

「お酒が進んじゃうかもね」

 こうして話しているだけで、失せていた食欲が復活してくるようだ。

 二人で話しながら、腕をふるう。一人でいた頃は、家の中でこういう楽しみがあるって知らなかった。

 ……ずっとこのままでいられたらいいのに。

欲張りな気持ちが、ふいに顔を出す。心の中で(かぶり)を振った。


「なに?」

 なんてことを考えていたら、つい拓海のことを見つめていたらしい。

「ううん、一緒に料理するのも楽しいものなんだなぁって思って」

「……そうだな」

 そう言って拓海が見せた笑みは、やはりどこか無理をしているように見えた。


< 134 / 223 >

この作品をシェア

pagetop