お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~

「夏美ちゃん、いらっしゃい!」

「こんにちは、ご無沙汰してすみません」

 翌日、お祭りに行く前に寄るところがあると言って拓海に連れて来られたのは、なんと彼の実家だった。

「拓海ったら、そうとわかっていればお土産を買ってきたのに」

「そう言うと思って、ちゃんと俺が用意してきた」

 彼が取り出したのは、私の大好きな永寿萬栄堂の夏季限定涼味『黄金みつまめ』だ。なんと拓海のお義母さまも、永寿萬栄堂の和菓子が大好物らしい。

 拓海が渡すと、お義母さまは手放しで喜んでくれた。

「まあ嬉しい! 冷やしておくから、これは後で食べましょ。その前に、夏美ちゃんはこっち」

「えっ?」

「いってらっしゃい」

 バイバイと手を振る拓海に見送られ、お義母さまに手を引かれて、客間に移動する。


「うわ……、素敵!」

「でしょう?」

 私の反応に、お義母さまは満足そうに微笑んだ。

 客間の中央には衣桁が置いてあり、そこには女性ものの浴衣が掛けられていた。

 白い清涼感のある生地に、全体的に大胆な紺色の丸っぽい模様が入っている。

「この模様は雪輪繋ぎって言うの。見ていて涼し気な感じがするでしょう?」

「はい、とっても素敵です」

 お義母さまによると、この模様は冬の情景を表しているらしい。見た目から涼を取り入れるという昔の人の知恵なんだろう。


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