お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
「……どうぞおかけになってください。拓海なら、もうすぐ帰って来ると思いますので」
彼女を立たせたままにしておくわけにもいかないので、リビングのソファーに案内して、冷たいレモンティーを出した。
佐奈さんを部屋に招き入れてすぐ、拓海には連絡を入れた。ちょうど家に向かっているとことだったので、あと数分もすれば帰って来るだろう。
「ありがとうございます。いただきます」
グラスに挿したストローにそっと口をつけ、「美味しいわ」と微笑む。その表情があまりに可愛らしくて、思わず見惚れてしまった。
それにしても、やはり佐奈さんのこと見覚えがあるような気がするのはなぜだろう?
特に彼女の、とても目を引く長くてさらさらの黒髪。胸の辺りまであるその髪がさらりと揺れるのを、なぜか以前も見たような気がする……。
突然、いつかの光景がフラッシュバックした。
綾さんと飲んだ日、拓海の迎えを待っていた時に偶然見てしまった光景。
間違いない、佐奈さんはあの夜拓海の車の助手席に座っていたあの女性だ。
「そうだ、先に夏美さんに渡しちゃおう!」
佐奈さんの声で、現実に引き戻された。
彼女はハンドバッグから白い封筒を取り出すと、私に手渡した。封筒の下部分には、淡いグレーでレース模様が描かれていて、表には『Happy Wedding!』と書かれている。
そうだ、佐奈さんは湊人さんの結婚相手。許嫁だ。
でも兄の結婚相手と弟が、夜遅くにふたりきりでいるって……普通のことなの?
「ぜひ夏美さんもいらしてくださいね」
「……あ、ありがとうございます。ぜひ」
幸せオーラ全開の笑顔で、佐奈さんは私に微笑みかけた。