お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
佐奈さんに、なぜあの夜拓海と二人でいたのか訊いてみたい。
でも、私が見る限り、佐奈さんが私に対して後ろ暗そうにしているようすは見えない。それどころか、湊人さんとの結婚式を心から待ち望んでいるように見える。
佐奈さんの幸せに水を差すようで、どうしても切り出せそうになかった。
「……あの、佐奈さんと湊人さんは、どうやって出会ったんですか?」
その代わりに、私は佐奈さんと湊人さんのなれそめを聞いてみることにした。どんな素敵な話が聞けるかと思いきや、佐奈さんの反応は、予想外のものだった。
「……あの、夏美さんはなにも聞いてらっしゃらないの?」
「なにをですか?」
首を傾げる私に、佐奈さんは言いにくそうに口を開く。
「私はもともと、拓海の婚約者だったんです」
「え?」
佐奈さんが拓海の元婚約者? そんなの初耳だ。それじゃあ私と拓海の契約結婚のきっかけになった人って、佐奈さんなの……?
……どうして拓海は、こんなに可愛らしい人との結婚を断る必要があったんだろう?
「私と祖父江家のふたりは、幼馴染みなんです。両家の親同士が昔から仲がよくて、ずっと家族ぐるみのおつきあいをしていて。そうしているうちに、湊人さんか拓海のどちらかと、私を結婚させようって話しが出ていたみたいで」
佐奈さんのご実家は、郊外にある大きな病院だという。
「祖父江とは畑違いの業種ですけど、そういう繋がりがあるのも、お互いの家のためにいいんじゃないかって考えたみたいです」
「まあ私には難しいことはよくわかりませんけれど」と言って佐奈さんは軽やかに笑う。