お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~

「取らないの?」

「それが、知らない番号で……って。ちょっと、綾さん!」


 出るべきか迷っているうちに綾さんが私からスマホを奪い、通話の表示を勝手にタップしてしまった。酔いが回っていて手元が狂ったのか、ついでにスピーカーまでもがONになる。


「あ、夏美? 俺、拓海だけど」


 その声を聞いて、反射的に通話をオフにしていた。綾さんと、無言で顔を見合わせる

「夏美ちゃん、今のはさすがに……」

「わかってます。ああっ、もうどうしよう」

 条件反射って恐ろしい。自分から、よけいに拓海と顔を合わせにくくしてしまった。


「言っとくけど、私じゃないわよ」

 さすがに個人情報まではばらさない、と綾さんが首を振る。

 想像がつく。たぶん拓海に携帯の番号を教えたのはおじさまだ。本当に、おせっかいなんだから。次に会う機会があったら、また問い詰めなきゃ!


 それより、電話だ。拓海に今の番号を知られてしまった。
またかかってきたりしたら、どうしたらいい!?


 さっきまで二日酔いの心配をしていたというのに。

 なんてこと。酔いは、一気に醒めた。


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