お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~

 たしかに、祖父はいくつもタイトルを取った囲碁界のレジェンドのような人だけれど、孫の私はプロ試験にも受からなかった、ごく普通の会社員だ。


「一緒に食事は気が進まないだろうから、別室に用意する。享和園の昼懐石だぞ」


 社長のような財界人をはじめ、政治家も御用達の高級料亭だ。きっと私の想像を絶するようなごちそうにお目にかかれるに違いない。


「お土産に文楽堂の菓子折りもつける」

 銀座にある老舗菓子舗じゃないか。菓子折りなら一箱五千円からだ。

「……文楽堂なら、最中も入れてくださいよ」

「もちろんだ」

「行きます」


 目の前に次々に餌を吊り下げられて、断れるはずがない。

 私は、社長のお願いを受け入れることにした。


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