お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~


「弁護士ってことは、拓海も犯罪なんかを扱うの?」

 弁護士と聞いて私が真っ先に思い浮かべるのは、テレビでたまにやってる2時間ドラマだ。大勢の傍聴人がいる法廷で、「異議あり!」と叫ぶ拓海を想像する。

「いや、俺の場合は企業法務とか国際法務とか、主に法人向けの案件を取り扱うことが多いんだ」

 ああ、そっち方面なのか。私も仕事柄、なんとなくだけど拓海の仕事内容は想像できる。

「国内企業と海外企業との間に入ったりとか?」

「そうそう、そんな感じ」

 なるほど、それでわざわざアメリカ留学までして向こうで資格を取ったのだ。

そして私は、囲碁のプロ棋士になるという夢を叶えることはできなかったと、正直に彼に告げた。


「前も言ったけど、あれから夏美はどうしたんだろうって気になってたんだ」

 アメリカにいる間も、時たまネットニュースなどをチェックしてくれていたらしい。しかし拓海は、私の名前を目にすることはなかった。

「祖父の囲碁教室も、あの後すぐに閉めてしまったの。祖父には申し訳ないことをしたと思ってる」

 結局私一人では、次々に辞めていく生徒さんたちを引き留めることはできなかった。祖父に託されたのに、私は教室を守ることができなかった。それでも祖父の住宅兼教室を処分する気にはなれず、私がたまに通って管理をしている。


< 34 / 223 >

この作品をシェア

pagetop