ヘタレな俺はウブなアラサー美女を落としたい


 綺麗に磨かれた正面の鏡には、さっきまで地面に這いつくばっていた情けない男子大学生が映っている。丸首の白いTシャツに、上から羽織っているのはグリーンのオープンカラー半袖シャツ。首に提げているのはトライアングルのネックレス。下は黒デニムのスキニーパンツ。髪は明るくライトブラウンに染めたショートミディアム。片耳には太めの黒いイヤーカフ。

〝遊んでる男子大学生〟を鍋にぶち込んで溶かして等分して平均値化して型に流し込んで再生産すれば、こんな男子ができあがる。俺のファッションはまさしくそんな感じだ。




 念入りな歯磨きを終えて元いた部屋に戻ると、独特の香りが漂ってきた。エスニックで、ピリッとした刺激を伴っている。ちょっぴりスモーキーで、それでいて甘さすら感じる芳醇な香り。


(……カレー?)


 それにしては複雑な香りだけど、カレー以外に該当するものが思いつかない。

 俺が香りにつられたようにふらふらと近づいていくと、ちょうどお姉さんが鍋の火を止めるところだった。鍋の中身はやっぱりカレー。近づくとより強く感じるスパイスの香り。具は鶏肉らしきものが浮いているのが見える。とろみはなく、サラサラとしたタイプ。

 まだ若干の気持ち悪さが残る今、正直カレーはちょっとクドいかも……。
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