蜜月身ごもり婚~クールな旦那様のとろ甘な愛に溺れそうです~【華麗なる結婚シリーズ】
勢いよく家を飛び出したはいいが、私は蓮人兄さまの会社のビルを見上げてためいきをつく。
大村グループ本社ビルほどではないが、SOWA食品の本社ビルは、いくつもの大手企業が入った都心の巨大ビルであり、3階分はありそうな吹き抜け家のエントランスには、お昼を回ってもかなりの人が歩いていた。

そんな中、受付をみつけて私はまた小さくため息を付く。そこにはきれいな真っ白な制服にピンクのスカーフをしたきれいな受付の女性がが座っていて、特にアポなどない私は、何の約束と言って蓮人兄さまに会えというのだろう。

思い立って出てきただけではどうにもならない現実に、私は回れ右をすると窓際のソファーへと腰かけた。

そこでぼんやりとエントランスを見つめる。スーツ姿の男性や、綺麗に髪を巻いた華やかな女性社員がたくさんいて、私はさらに気後れしてしまう。
それに、もしも蓮人兄さまに会っても、私はきちんと話をできるのだろうか?

ふと視線を下に向けると、藍色の小紋の柄が目に映る。いつもならばお気に入りの着物なのに、こんな場所ではただの場違いな勘違いの女なだけだ。

帰ろう。

きっと蓮人兄さまと話をすることもできないし、私には無理だ。そう思い立ち上がったところで、不意にざわめきに似た声が聞こえ私はその方へと目を向けた。
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