蜜月身ごもり婚~クールな旦那様のとろ甘な愛に溺れそうです~【華麗なる結婚シリーズ】
あっ……。
声が出ていなかったことに安堵するも、私はその人から目を離せなかった。
昔の面影はあるものの、別人のように濃紺のスリーピースのスーツを完璧に着こなし、髪もキッチリと整えられた蓮人兄さまを周りの人々も隠すことなく視線を向ける。
これが、蓮人兄さまのカリスマ性だ。そんな昔からわかりきっていたことを再認識する。
隣には秘書なのだろうか。きれいに夜会巻きにされたアップの髪に、洗練されたパンツスーツを着こなし、手にはタブレットを持ったきれいな女性がいた。
とてもお似合いに見える二人を、ただ私は見つめていたのだろう。
バシッと蓮人兄さまと視線があい、私はビクリと身体を揺らした。
少しだけ驚いたように目を見開いた蓮人兄さまは、隣にいた女性に一言二言かけたと思うと、私の方へと歩いてくるのがわかった。
どうしよう。その言葉だけが頭を回る。話をすると言ったものの結局会う勇気さえ出なかった私が、いきなり何を話せるというのだろう。
蓮人兄さまは鋭い視線のまま表情を変えることなく、私の目の前でピタリと足を止めた。