わたしにしか見えない君に、恋をした。
「ちょっと何すんのよ!?恥ずかしいからやめてよ!」

湊のことが見えないお姉さんには、まるであたしが独り言を言いながらお姉さんに両手で手を振っているように見えただろう。

「ひっ!」

お姉さんは小さな悲鳴を漏らして顔を歪めると、あたしの横を全速力で通り過ぎて行った。

それはまるで変質者を見るような恐怖におののいた瞳だった。

「湊ぉぉぉ、アンタ何してんのよ!?」

「うわっ、マジ恥ずかしいやつ」

ケラケラと目に涙を浮かべて笑う湊の背中をバシッと叩く。

「いってぇ」

「湊が悪いんだからねっ!!」

「だからってそんなに強く叩くんじゃねぇよ!」

ありがとう、湊……。

湊とこうしてふざけあっている間は、嫌なこと全部忘れられる。

笑顔でいられる。

言いたいことも我慢せずに言えるし、気を遣わずにいられる。

ありのままの自分の姿を見せることができる。

湊という存在はあたしの中で少しずつ……でも、確実に大きくなっていった。


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