わたしにしか見えない君に、恋をした。
数分間一緒にいただけなのに、なんだかどっと疲れた。

「なぁ、さっきの男ってなんていう名前?」

先輩から離れると、湊がそう尋ねた。

「金山先輩のこと?」

「そう。あの嫌な奴」

「金山直樹(なおき)」

「ふーん」

「なんで?何か思い出した?」

「いや、特には。ただすっげぇ嫌な奴だなって思っただけ」

「ははっ、湊もそう思った?」

「顔はいいけど性格は最悪。お前の弟もあいつにいびられてないといいな」

「だねぇ。だけど残念なことにもういびられてるよ」

「マジで?」

「うん。愁人が一年でレギュラーになったことをねたまれてるんだと思う」

「妬むぐらいなら努力すればいいのにな」

眉間にしわをよせて呟く湊。

「男でもあるんだね。そういうこと」

人を妬んでいじめたり、ネチネチと根に持ったり。

そんなのって女特有のことだと思ってたけどどうやら違ったみたい。

「あるに決まってんじゃん。そんなの男も女も関係ねぇよ」

「だよねー……。って、湊も誰かを妬んでいびってたとか?」

冗談で言うと、湊は首を傾げた。

「さぁ?ないとは思うけど全く記憶にないからなんともいえない。ただ……」

「ただ?」

「なんか流奈の弟の名前に……覚えがあるような気がする」

「愁人の名前?」

「サッカーと関係のある名前だからかもしんねぇけどな」

「シュートと愁人……か。おんなじだもんね」

「あぁ」

結局この日、学校を出て放課後よくいく場所に足を運んだものの湊の記憶が戻ることはなかった。
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