わたしにしか見えない君に、恋をした。
必死に感情を押し殺しているに違いない。その表情に胸が締め付けられる。

あと……一か月とちょっとしか一緒にいられないの……?

なんで。嫌だよ。そんなの嫌だ。

こんな気持ちになるなんて少し前までは思ってもいなかったのに。

幽霊とかそういったものが苦手なあたしにとって湊の存在はただただ恐ろしいものでしかないはずだった。

正直、初日は怖くておっかなびっくりだったけど湊と過ごす時間が長くなるにつれて少しずつ打ち解けていった。

まだ出会って10日程度だ。

みんなの前では自分をさらけ出すのが怖くて仮面をつけていたあたし。

だけど、湊の前では素の自分でいられた。

湊と一緒にいるときだけは……ありのままのあたしだった。それなのに。

「……――姉ちゃん、ちょっといい?」

突然部屋の扉がトントンっと叩かれた。

「入っていいよ」

そう告げると、愁人がほんの少しだけためらいながらあたしに部屋に入ってきた。

湊はすっと立ち上がって愁人に場所を譲るかのように床に移動した。

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