その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
「広沢くんは、私の言ってることよりも、菅野さん達の噂話のほうが真実に聞こえたの?」
「え?」
人通りのない夜道で、やけに静かに響いた私の声に、広沢くんがハッとする。
「たぶん私のほうが、これまでにたくさん、広沢くんと誰かの噂をいろいろ聞いてきた。それに動揺してしまうこともあったけど、広沢くんが言ってくれたことのほうを信じてきたつもり。だけど、広沢くんは違うの?」
今度は私のほうが、広沢くんの顔をジッと覗き見る。
暗がりの中でもはっきりとわかるくらい、彼の瞳は戸惑いで揺れていた。
しばらく待っても何も言わない広沢くんに、思わずため息が溢れた。
きっと私は、広沢くんに『違わない』とはっきり否定して欲しかった。
だけどそれは、いつも充分すぎるくらい物分かりの良い彼への過剰な期待とわがままだ。
迷った広沢くんが悪いわけじゃない。
「ハンバーグ、また今度にする?」
広沢くんの持っていた荷物を引き取って、緩く口角を引き上げる。