その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
無理難題でも押し付けられるんじゃないだろうか、と疑っていたから、正直ものすごく驚いた。
広沢くんが、本社に異動……
正直言って、これまでにもその可能性が全くなかったわけではない。
優秀な若手社員を本社に引き抜きたいという会社の方針も、何度か聞いたことがあった。
だけど、あまりに急だし。それ以前に、広沢くん本人よりも先に企画部長からこんな話を聞かされるとは思っていなかった。
さっき、私のことを呼びに来た広沢くんの態度を思い出す。
いつもどおりに笑いかけてきた彼に、特別変わった様子は見られなかったけど……
きっと、本社への異動の話は受けているだろう。
「碓氷を呼んだのは、広沢が抜けたあとの新人教育のことだ。桐谷に誰をつけるか考えておいてほしい。引き継ぎのことも考えて、できれば早めに」
「わかりました」
いろいろと思うところはあるけれど、私の個人的な感情は企画部長の前では晒せない。
頭の隅に広沢くんの顔を追いやりながら、企画部長から受けた指示を考えることに意識を集中させることにした。