その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
「乃々香、あんたはこっち側」
紅茶を運んできた美耶子が、それを広沢くんの前に出しながら、厳しい声で乃々香に注意する。
「はーい」
乃々香が渋々広沢くんから離れるのを確かめてから、美耶子が私に目で合図してきた。
「お姉ちゃん、いつまでそこに立ってるの?早くこっち」
「うん」
美耶子に促されて、和室のほうに進む。
広沢くんの隣に並べられた座布団に正座して、父や美耶子と向き合うと、なんだか急に、ものすごく緊張した。
にこやかに父と世間話している広沢くんのことをチラッと見ると、彼が太腿の上にのせた手を赤くなるんじゃないかと思うくらい強く握りしめていた。
取引先との大事な契約交渉のときですら、彼がこんなにも手のひらを握りしめているのは見たことがない。
表情には出さないけど、広沢くんもきっとすごく緊張しているんだろう。
さりげなく動いて広沢くんの肩にそっと肩をぶつけたら、彼が驚いたように私を見て、それから小さく微笑んだ。
大丈夫。きっと、美耶子もちゃんと納得してくれる。
広沢くんの笑顔を見たらほっとして、なんの根拠もないのにそう思えた。