その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
「あ、じゃあ私、雑巾探してきますね」
私の手をつかんで冷水でじゃーじゃーと冷やす桐谷くんの横顔を茫然と見ていると、菅野さんが慌てて給湯室から出て行った。
「ありがとう、桐谷くん。あとは自分でできるから……」
ずっと私の手首をつかんだまま冷水をあててくれている桐谷くんに遠慮がちに申し出ると、彼がハッとしたように顔を赤くした。
「すみません、つい。それ、なるべく長く冷やしたほうがいいですよ。あと、できれば医務室に……」
「ありがとう、でもそんなにひどくないから大丈夫よ。桐谷くんはコーヒー淹れたらデスクに戻って」
「でも……」
そう指示して笑いかけると、桐谷くんが困ったような顔をする。
「碓氷さん、雑巾とフキン持ってきました。大丈夫そうですか?」
「ありがとう。あとは私が片付けるから、業務を始めてね」
タイミング良く菅野さんが戻ってきてくれたので、水道の水を止めて雑巾とフキンを受け取る。
それを水に濡らしていると、菅野さんが隣に歩み寄ってきた。