可愛らしさの欠片もない
「離婚なんてどうでもいいことよ。いつだってしてあげる。だけど、別れたら実妃となんて…そんなの…。それが嫌なのよ。だから紙切れ一枚のことだと言われても判は押さない。実妃が駿脩のことを好きなことは直ぐ解った。用心深いから教えてはくれなかったけど。でもそんなの、見てたら解る。実妃と駿脩の仲、壊したのは私…私が実妃から盗ったのよ」
…え?…ちょっと、私が感じてるのと何だか違うような気がする。…これが本当なら…。
「私は実妃のことが嫌いだった。実妃は賢くて空気が読めるから…みんなに好かれてた。友人?そんなの…見せかけだった、私はね。実妃と居れば私も良く見られた、利用してたのよ。性格も良くないのに、一緒に居れば同類のように判断してくれたから。…みんな大っ嫌い。実妃、実妃って」
あ。
「私にあるのはこの見てくれだけ」
あ。
「実妃を知ってるあなたなら、私と比べて解るでしょ?
私はね、騙して駿脩と結婚したの。駿脩は結婚はしない、結婚なんてどうでもいいって思うようになったの。そんな考えの人だったの。そんな考えに私がさせたの。だったら私でもいいでしょって。駿脩と結婚、それだけで良かったから。…実妃は本当はあなたを好きじゃない、実妃は他に好きな人がいて、妊娠もしてるって」
……え。ちょっと待って…嘘…。
「諦めさせて、私が入り込んだの」
「嘘です」
「嘘じゃないわ!弱ってる駿脩を私が盗ったの。…慰めたの」
「違います」
こんな話はでたらめ。信じては駄目だ。先輩も甲斐さんも私に嘘なんかついてない。…友人だって言った。
「あなたが作った嘘です。私は騙されません」
「フ、フフ。私の言うことが信じられないのと同じように、最近会ったばっかりの駿脩のこと、信じられるの?あなたは利用されてるだけなのよ?…すっかり逆上せちゃって、判断が出来なくなってるのね。駿脩に取り込まれちゃった?
いい男だもんね、駿脩は。…良かったでしょ」
「…止めてください」
止めて…。
こういうことだ。例え正面から会ってなくてもどんな形だって接触はしてくる。それを恐れたんだ。でも、大丈夫。こんな口車には乗らないから。…誘導には引っ掛からないから。
「信じなくてもそれはあなたの自由よ。とにかく、希望通りにはさせないから。
別にいいんじゃない?私、文句は言わないわ。このまま、あなたと駿脩の関係が続いても。すっとこんな関係でいいなら続けるといいわ」
思い込みで病んでる…どうしたら、この人の心、解き放てるのだろう。全然解らない。…全ては嫉妬なんだ。自分が上手くいかないから、他人の幸せを祝福できない…。幸せにはさせないって…。
あぁ、先輩の妊娠のこと、そこまでは調べてないのだろうか。でも、知ったら知ったで怖い。