可愛らしさの欠片もない

腕に手を重ねた。

「……離れませんから。覚悟しておいてください。もし性格の不一致だと解っても、今更遅いですからね?」

言っておかないと駄目だ。それで駄目にはなりたくないから。

「フ…大丈夫だ。駄目にはならない。喧嘩しながら一緒に居ればいいんだから…。いくらでも喧嘩したらいいさ」

言質、頂きましたよ?

「うん。…そうします。……お腹、空きました」

「あ、あぁ、そうだったな、ゆっくり食べよう」

「……あ」

「どうした?具合、悪くなったか?水、飲むか?…白湯のほうが体にはいいんだが。…バニラアイス、買って来ようか、だったらお粥も買ってくるか…」

覗き込まれた。

「長くなるって言ってたのに」

「ん?」

たった一音なのに…声がよく聞こえる。

「覚悟して…しばらくは辛い関係だって思ってたのに…まだつき合ってそんなに経ってないのに…」

頭に栄養が足りない。また、同じようなことを…言ってる。

「解決したんだ。優李のおかげだ」

首をゆっくり振った。

「…凄くラッキーですね、凄く……こんなに、一度に幸せをもらってもいいのかなって」

…こうなってみると呆気ない。呆気なさ過ぎる。…現実が信じられなくて怖い。

「優李、そう思うのは辛かったからだ。辛い以上に優李が想像で苦しんだから。これは普通なら、普通のことだ」

好きな人と気兼ねなく一緒に居られること、結婚…出来ること、それが普通?…やっぱり

「凄く幸せ…幸せです」

「俺も、優李と出会えて幸せだ。…プラマイゼロ以上にプラスな気分だ。これからはもっとプラスになる。もっと幸せを感じる。…これからだ」

…先輩も…プラマイの話、してたな…。

「…わ」

持ち上げられた。着地したのは膝の上だ。

「…軽いな、優李は。…好きだ優李。…好きだよ…大好きだ」

そうなってほしい。私は甲斐さんとずっとご褒美のプラスを感じたい。でも、まだ聞きたいこと、知らないこと、沢山ある。…聞かなくていいこと、…知らなくて良かったこと、きっとあるはず…。

「優李…何を考えてる…駄目だぞ?」

「大丈夫。甲斐さんのこと、…好きだなって考えてただけです」

「そうか」

…はい。

「…優李、俺だってずっと一人だった。大人だから外面は装える。一人で居ると荒んで孤独ばかりを感じて…話すこと、いざとなっても口数が減る。考えてばっかりだ。嬉しいこと、話したいときに誰も居なかった。優李のことばかり直せって言えない。俺も同じだ。…話さなきゃな、どんなことも。これからは一日一日、一年一年、大事にしよう。それが生涯になるように」

「はい。最後が嬉しいこと、それだといいですね」

「ああ、きっとそうなるさ」

「はい」
< 147 / 150 >

この作品をシェア

pagetop