可愛らしさの欠片もない
花が一杯だ。あぁ、なんだか盛況だな。
「…いらっしゃいませ」
「うん、こんばんは。今夜はえらい満席のようだな」
「はい。久しぶりに開けさせて頂きましたら、有り難いことに、皆さんに来て頂いて」
そうか、…。そうだったな。マスターは手術をしたんだった。
「元気になって良かった。経過も良さそうだね」
「まあ、なんとか、…またこれからですね。いつものでよろしいですか?…そちらも、私より…とんでもなく大変だったでしょう。医療従事者の方々には感謝しかないですね。大きな火事でしたから」
ああ…あれは酷い事故だった…。まだ重傷の患者さんが入院している。これからまだ…時間は必要だ。つらい治療になる。
「あ、いや。ああ、いつものでお願いします」
「畏まりました、席はこちらでお願いできますか?」
「ああ、どこでもいいよ」
ふぅ、んー、今夜も見せかけだけのアルコールか。いつ呼び出しがかかるやら…仕方ない。
「隣、失礼しますよ」
会釈を返された。……ん?あっ、この女性、…どこかで会ったような。あ…悪い癖だな。暗くてよく解らんが、会っていたとしても個人情報に関わる。まして、『どこかでお会いしましたか?』なんて、ナンパのような軽いことは言えない。
「…どうぞ」
「ん、有り難う」
「はぁ」
「はぁ」
あ。
「これは、何とも失礼…」
隣の女性も疲れてるのかな。……あっ、思い出したぞ。甲斐だ。そうだ、甲斐の写真だ。学生の頃のものだと見せられた写真に一緒に写っていた彼女だ。これはなんという縁だ。…話しかけてみても大丈夫なのでは。