可愛らしさの欠片もない

「いつもご飯どうしてるの?」

「え、私ですか?」

これ、鬱陶しい返しだ。他に誰が居る。私と話しているのだからそうに決まってるんだけど、何だか解りきったことをつい聞き返してしまう。間を繋いでいるようなものだ…まあ、少し無駄が入る会話、それが仕事ではない会話というものだと思ってるけど。

「そう、ご飯、晩御飯とか、ちゃんと作ってるの?」

「んー、作ったり、作らなかったり…美味しいお店のをテイクアウトしたり、カップ麺を食べたり。その繰り返しです。一人だから、いいようにしてます」

「あ、そうなんだ。随分、正直に言ったもんだね」

カップ麺のことまで言ったからだ。でももう本当、今日はこれでいいってなることはあるから。それにたまに食べたくなるのよね。これは言い訳かな。

「あー、そうですね、フフフ」

特によく見せようとか、何も思わなかった。

「まあ、俺相手には体裁を気にすることもないか…」

…あ、そう言われると、ちょっとはよく見せるような言い方をすれば良かったのかもしれない。

「そんなことではないです。実際、解らないとはいえ、何か凝った物を作れるような話をしても嘘は直ぐメッキが剥がれてしまいますから。何が得意なの?とか、作り方なんか聞かれてしまったらバレてしまいます。…んー、それでも?二十歳そこそこの年齢だったら『料理はしてます、いつも』って言ってたかもしれないです。何だか…諸々すみません」

いい顔をしたくて言ってしまいがちな年齢のような気がする。大島さんだからどうでもいいと思って答えた訳じゃない。正直に言っていた方が後々困ることもないことをこの年齢だから知ってるからだ。

「フ、いや、いいんじゃないの?別れた奥さんもそうだったよ。今更悪く言うつもりはないけどね、料理は得意だ、って言ってたんだよ、最初の頃ね。それで部屋でご馳走になる日があった訳よ。こっちも嬉しいし楽しみにして行ったんだよ。でってときに、ボロが出たって感じだったな。……今日は緊張して失敗してしまったからって、名前もよく解らないような料理をね、無理して作ったみたいだった。で、結局、テーブルに並んでたのはデパ地下の惣菜だったってオチ。それもね、それはそれで可愛かった訳よ」

……あっ。
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