可愛らしさの欠片もない
私ったら…なんでもう……、気がつかなかったんだろう。そうよ、そうだよ。ごめんなさい、大島さん。私を誘うつもりもないご飯に誘わせてしまって。だからといって、もう断るなんてことも遅い、できない。それはもうしてはいけなくなってしまった。
「ん?あ、ごめん、別れた奥さんの話なんかしたもんだから、気を遣わせたかな、ごめんごめん。なんていうかそこら辺は大丈夫だから。普通に聞いて?色々言ってもらって大丈夫だよ?」
…。
「私、書類を…」
「ん?」
あ、どうしよう。見切り発車、考えがまとまってないのに…もう話し始めてしまった。
「…あ……大島さんのこと、待ってないで、でも大事な書類だから、引き出しとかに収めてメモを残して置けば良かったです。そうするべきでした」
「ん?」
「…待ってたから、びっくりさせてしまいましたよね?」
きっともう誰もいないと思って帰って来たのに。
「…あ、うん、いや、びっくりっていうか…」
フロアに人はもう居ないだろうって…。
「もう誰も居ないって、そう思ってあのくらいの時間に戻って来られたんですよね?」
私の考え方は間違っているだろうか…でも、そんな気がしてならない。…思い込み?
「それは…」
「こんなこと、私みたいな年下の、……結婚の経験もない者に言われると、本当、嫌な気にさせてしまうかもしれないですが、誰も居なくなったフロアに戻って来たかったんですよね?」
きっとそうだと思う。大島さんの内面、何を知ってるってことではない。だけど顔を会わせるのが煩わしいときだってある。大島さんのような人だと相手に気を遣わせてるのではないかと考えがちだと思う。
「ふぅ……そうだね。当たり。女性社員は居ない時間だとして、男しか残ってないにしても、離婚のこと、仮にも冗談で話せる理由でもないし。これがね、俺が浮気でもして、散々けんかして、その挙げ句の離婚なら、多少大袈裟にでも盛って笑って話せるんだけどね。嘘は言えないし、やっぱりそうなると聞いてる方が重くなる理由だからね。励まされちゃったりして。あ、君には言ってしまったんだったね。あぁ……なんだか矛盾してるな」
…。
「あの…」
このままだと気まずくなってしまう一方だ。
「でも不思議だね」
「え?」
「今まで俺のことは名前を知ってるくらいだっただろうに、仕事を抜きにこんなに喋ったことなかったから」
そうなんですよね。…こんなに、いきなり立ち入った話をするなんて、あり得ないといったらあり得ない。そんな仲ではなかった。
「そうですね、そうでしたね」
では、私はどう映っていたのだろうか。
「……ずっと、勤勉な子だなと思ってたよ」
「え、勤勉?私がですか?」
「うん。こんな話は…謙遜するだろうけど。
いつもを知ってる訳じゃないけど、当たり前って言ったら当たり前なんだろうけどね。
解らないことは自分でできるまでちゃんと聞いてやる子だなと、そういう印象かな」