旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~

 めそめそしていても仕方ない。退院してからゆっくりと、今後のことを考えよう。

 空の食器が乗ったトレーを回収場所に持っていくと、廊下の先から両親がこっちに向かって歩いてきているのが見えた。

「あっ。ふたりともー」

 大きな声は出せないので、ぶんぶんと手を振った。

 病室の前に戻ろうと一歩踏み出すと、両親の後ろから別の人が歩いてきていることに気づく。

 兄かしらと目を細めたが、どうやら違う。彼らはさっき、仕事の合間に病室に来た。今は勤務中のはずだ。

 では別の患者の面会人だろうか。その割には、両親にぴったりとくっついてきている。

 とうとう両親と謎の男は私の目の前までやってきた。

「具合はどうだい、萌奈」

 父が優しく笑いかける。

「記憶以外は全然大丈夫。あの、こちらは?」

 両親の後ろに立っていた人物も、こちらに微笑みかけた。私は思わず会釈する。

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