旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~

 なにかが起きたのだということはわかったけど、後ろから勢いよく追突されたとまでは判断がつかなかった。

 薄れていく意識の中で、自分は死ぬのかなとぼんやり思った。

──最後に副社長の声を聴けて幸運だったな。

 強烈な眠気に負けるときのように、私はそっと意識を手放していた。



「着きましたよ、お客さん。ここで良かったですか」

 運転手の声でハッと覚醒する。周りを確認すると、窓はどこも割れていない。荷物も無事に傍らに置いてある。

 今のは、事故にあったときの記憶……。

 ボーっとしてバックミラーを見ると、こちらを怪訝そうにうかがっている運転手と目が合ってしまった。

「あ、ごめんなさい。大丈夫です」

 慌てて代金を支払い、タクシーから降りた。

 生々しい夢の衝撃が、体をふらつかせる。まるで今乗っていたタクシーが後ろから追突されたように、頭がふわふわとしていた。


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