きみと秘密を作る夜
両親は、あまり会話をしない夫婦だった。

でも、夫婦なんてそんなものだと思っていた。


それはそれで普通に毎日を過ごしていたはずだったのに、なのにどうしてわざわざ離婚までしなきゃいけなかったのか、今でも私には理解できない。



私が子供だから?



「あー……」


悶々と考えているうちに、涙が溢れてきた。

悲しさや悔しさ、不安感でぐずぐずと泣いていると、突然、



「おい」


と、横から声がした。

はっとして顔を向ける私に、隣のベンチに座っていた、私と同い年くらいの男が、顔を歪めて毒づいてくる。



「お前、このへんじゃ見ない顔だよな。どこの誰かは知らないけど、海見てぶつぶつ呟いて泣くとか、かなりキモいんだけど」


いつからいた?

どこから見られてた?


っていうか、私、今、『キモい』って言われたよね?



「別に泣いてないよ。汗だよ。それにそっちこそ、嫌ならどっか行けばいいでしょ」

「いや、俺の方が先にここにいたんだけど」


じゃあ、最初からずっと見られてたわけか。

悲劇のヒロイン気分もどこへやらで、私は急に恥ずかしくなった。
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