きみと秘密を作る夜
「見ないでよ、変態」

「泣き顔見られたくなきゃ、家でひとり、布団かぶって泣いとけよ」

「だから別に、泣いてないって言ってるでしょ」


吐き捨てるように言って、私は強引に涙を拭った。

やっぱり私は感傷に浸ることすら許されないらしい。



「それに、言っとくけどねぇ、そっちだって、男がひとり、海見てぼうっとしてるとか、かなりキモいからね」


悔し紛れに言い返し、私は立ち上がって男に背を向けた。

そのまま歩き出そうとしたら、男はふと私を呼び止める。



「なぁ、お前、名前は?」


どうして泣き顔を見られた上に、ご丁寧に名前まで名乗らなきゃいけないのか。

恥の上塗りをする気にはなれず、無視して私は歩を進めた。



もういい。

もう二度と泣かない。



必死で自分に言い聞かせ、私は拳を作って帰路へと着いた。

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