きみと秘密を作る夜


怒りのままに帰宅した私を、「あなたどこ行ってたのよ」と、母は鬼のような形相で迎えた。



「まったく、初日からそんなんじゃあ、いつまで経っても片付かないわよ」

「わかってるよ。疲れたからちょっと休憩したかっただけ」

「そんなこと言って、お母さん、週明けから新しい職場で働くことになってるんだから、それまでに終わらせといてくれないと困るのよ」


母の言葉に私は驚く。

母はいつだって事後報告だ。



「え? 仕事? もう決まったの?」

「警察署の近くの中央病院。人手不足だったらしくてね。ほら、先週、お母さんだけで一回こっちにきたでしょ? その時に面接して、その場で即採用」


看護師の母は、どこでも仕事を見つけられるらしい。



「これからは夜勤もすることになるけど、リナはおばあちゃんがいるから大丈夫よね?」

「……うん」


生まれ育った地元に戻ってきた母は、どこか嬉しそうだった。

と、いうか、離婚してから憑きものが取れたみたいにすら見える。


何だかなぁ、という感じだ。



「あぁ、忙しい。それでこっちはひと段落したし、これからご近所さんにご挨拶に行くから、リナもさっさと準備してちょうだい」

「私も行くの!?」

「当たり前でしょ。このあたりは、昔は田んぼばかりだったのに、私が出て行ってから、何軒か新しいおうちが建ったからね。知らない人も多いし。それに、ほら、リナだってご近所で新しいお友達ができるかもしれないじゃない」

「えー?」


私に『新しいお友達』ができれば不満はないとでも思っているのだろうか。


ほんとに勝手だな。

まぁ、もう、諦めるしかないのだろうけど。

< 7 / 272 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop