嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「そう思ってくれてうれしい。ありがとう」

 花帆は上擦った声でなんとか言うが、視線は相変わらず逸らしたまま。

「行き先までちゃんと伝えればよかったね。そしたら場所を変えたのに」

「うん?」

 伝わっているようで伝わっていない?

 頭の中で疑問符を浮かべていると、花帆も「?」という顔つきになる。

「仁くんが私とsyusyuに行きたいと思っていたって聞いたから、私は萌たちと別の場所に行けばよかったと思ったんだけど、違う?」

「足立さん?」

 ここで初めて飛び出した名前に、余計に頭がこんがらがった。

「……もしかして、阿久津さんとふたりで行ったと思ってる?」

「三人で行ったのか?」

「そうだよ! 阿久津さんとふたりで行くわけないじゃんか!」

 なんだ、そうなのか。

 話の筋が通った瞬間、疲労感に襲われて身体がどっと重たくなった。

「どこに行くのかだけでなく、誰と行くのかも教えてもらえると助かる」

「萌と行くって言わなかったっけ?」

「仕事終わりに寄り道してくるとしか」

「あ、そっか。弥生さんに、萌とカフェに行くから夕ご飯の時間に間に合わないですって伝えて、その後仁くんに連絡したから、詳細を省いちゃったんだ」

 ごめんごめん、と申し訳なさそうに微笑む花帆は無邪気だ。
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