嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 仁くんこと朝霧仁は、創業六十年以上の老舗和菓子店『朝霧菓匠(かしょう)』の跡取りで、現在三十一歳。

 母親と弥生さんは大学時代からの付き合いで、互いに親友と豪語するくらい仲がいい。両家族合同でキャンプやバーベキューをしたり、楽しいイベントにはだいたい両親に加えて朝霧家の面々が揃っていた。

 ひとりっ子の私にとって、仁くんと杏ちゃんは本当の兄弟のようで大好きな存在。

 仁くんと私は十歳も離れているので、先ほど母親が述べたように、杏ちゃんと一緒になって仁くんにはなにかと面倒をみてもらっていた。

 ただ仁くんは朝霧菓匠の跡取りなので、幼少期から創設者である祖父の秋正(あきまさ)さんの元で和菓子作りの勉強をしていて、それは年を重ねるごとに本格化し、大学生になる頃には多忙の彼と話をするのは難しいほど距離ができてしまっていた。

 こうして顔を見合わせて、ゆっくり話すのは本当に久し振りで。

 かっこいいのは昔からだけど、こんなに綺麗な顔だったっけ……。
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