嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 杏太は「はーい」と返事をして立ち上がり、俺を労わるように肩をポンポンッと叩いて通り過ぎる。

 とてつもなく、やるせない。

 でもおかげでうだうだと悩んでいた気持ちを整理できた。

 たとえ花帆が杏太と結婚したいと言い出しても絶対に認めないし、誰にも渡すつもりはない。

 花帆は子供が欲しいという俺の言葉に嫌がる素振りは見せなかった。

 花帆の気持ちを尊重しようといろいろ耐えていたけれど、いつまでも上辺だけの付き合いを続けて花帆の気が変わったら困る。早いうちに俺を好きにさせなければ。

 今夜から攻めるか。

 すぐにでも花帆に触れたくてしかたがなくなり、この日の食事はすべて味がしなかった。
 

 風呂からあがった花帆が、部屋に入ってくるなり腰に両手をあてて「うーん」と上体を後ろに反らした。

「腰が痛いのか?」

「そうなの。負担がかからないように、姿勢には気をつけていたんだけど」

「かなり痛む?」

「ちょっと気になるくらいだから大丈夫だよ」

「腰痛を甘くみない方がいい。唐突にギックリ腰になったりするから。ちょっと待ってろ」

 眉を下げて弱りきった顔をする花帆の脇をすり抜け、リビングチェストから湿布を取り出す。

 俺はあまり腰を痛めないが、よく手首が腱鞘炎になったりするので、湿布は切らさないように常備している。
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