嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 驚いてはいるが嫌がっている素振りはない。

 まだ入籍をしていないから俺ものというわけではないし、どこまで俺を受け入れてくれるのだろうか。

 家庭を持つことに興味がなかった俺の考えを変えた女性。一生大切にしたいし、子供もいらないと思っているけれど、花帆が望むのなら努力して、我が子にも精一杯愛情を注ぎたいと思っている。

「花帆」

 耳元で囁く。

 花帆の耳は赤く色づいていた。

 顔だけ振り向いた花帆の瞳は困惑の色を浮かべていて、眉は情けなく下がっている。それがまた愛おしく感じた。

「大事にする」

 本当に。心から思っている。

 ゆっくりと顔を近づけて、ひたりと唇を合わせた。

 このまま時が止まればいいのに。

 名残惜しさを胸に抱きながら唇を離して花帆と視線を合わせる。花帆はすぐにさっと目を伏せて、唇を真っ直ぐに結んだ。

「嫌だった?」

 急速に不安が込み上げてきて焦りが胸を支配する。

 花帆は俯いたまま顔を横に振って口をもぞもぞと動かした。

「言いたいことがあるならハッキリ言ってほしい」

 まったく余裕がないのに、喉から上がっていった声はいつも通りに落ち着いていた。

 ポーカーフェイスでよかったと心底思う。
< 90 / 214 >

この作品をシェア

pagetop