きっと、月が綺麗な夜に。
美矢がある程度曲の形を作っていたおかげか、作業は思った以上にハイスピードに進んで行く。

時間は4連休のうち、今日も含めてうちに戻るまでの3泊分。曲作りが終われば大丈夫そうなペースな気がする。


「こりゃヘビーな楽曲になりそうだ。猫ちゃん、気持ちが重たくはならないか?」

「そりゃ重たいよ。あたしの想い、全部乗っけたんだもん」


真剣な眼差しの美矢に、僕の詞を繋げていた手が止まる。


そう、だね。その通りだ。
今回美矢が用意したのは、これまで弾き語ってきた優しいものとは違う。

この文字の羅列に込められた想いは「大人の勝手に支配されるな」という、大人に傷付けられた彼女の想いを、今を生きる子や幼い頃の僕たち自身に向けて発信されている。


「自分で歩くしかない」「けれどひとりじゃない」と、強く、ストレートな言葉の羅列たちに変な付属が付かないように、僕もぎゅっと気を引き締めてボールペンの先を走らせた。


「痺れるね。こりゃ」


そんな僕たちを見比べた優は、何やら嬉しそうに微笑み、直ぐにまたイヤフォンの中の音と戦い始めた。
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