一匹狼くん、 拾いました。弐

 初めてだった、結賀の涙を見たのは。

 結賀は仁と同じで、いつも冷静で落ち着いてる感じだから、俺は結賀の涙なんて見たことなくて、それを見ただけで、とても胸が締め付けられた。

「はっ、俺の母親は、俺が中一の時に、伊織の父親と駆け落ちした。子供の俺と、永遠の愛を誓ったはずの旦那を置いて」

 俺の腕を掴んで、結賀は悔しそうに顔を顰めて、大粒の涙を流した。

「え」
 思わず声が漏れた。結賀がこんな仕打ちを受けたなんて、とても信じられなくて。

「あの母親の行方は、今もわかってない。母親が出てったせいで、父さんは仕事も手につかないくらい病んで、それが理由で、会社をクビになって。……父さんが社会復帰したのは、俺が中三の時だった。それまではずっと、ベットで寝たきりで。別に植物状態とかだったわけじゃない。ちゃんと食事もしてたし、風呂にだって入ってた。でも全然笑ってくれなくて、俺が話しかけても、ろくに返してくれなくて……今だって、俺の父さんは週に一回はうなされたり、急に泣いたりする」

「え、でも全然そんな風には」

「ああ。今朝みたいに精神が落ち着いてる時はすごく優しいし、穏やかなんだ。でも何かがきっかけで落ち込んだら、立ち直るのに、半日以上の時間がかかる。俺の父さんはそういう人だ」

 口をあんぐりと開ける。
 まさかそんな人だったなんて思わなかった。

「結賀はずっと独りで、おじさんの面倒を?」

「……いや。伊織と見てたよ。仁にも多少は手伝ってもらったけど。伊織は、父親が俺の母親と駆け落ちしたから、俺が家のこと相談したら、すぐに理解してくれてさ。そんであいつの方から、父さんの世話一緒にするって言ってくれて。……俺はあいつといると、すげえ気が楽なんだ。多分伊織もそう。だから俺と伊織は一緒にいる。俺と伊織は、お互いの気持ちが誰よりもわかるから。まぁそういう関係だからって俺と伊織が恋人になることは決してないけどな。……少なくとも俺は、異性を好きになれねえから」
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