一匹狼くん、 拾いました。弐

ウソツキのせいで、アイツは傷ついた。



「仁がパティシエ……」

 結賀から話を聞いた俺は、そう小さな声で呟いた。

 まさかあいつにそんな夢があったなんて想いもしなかった。

「そう。ビックリしただろ? ……あいつは華龍の中で唯一、ちゃんとした夢を持ってた奴なんだよ。ついでにいうと、まだ未練たらたら」

 肩を竦めて結賀は言う。

「……そうなのか?」

「ああ。あいつが料理を好き好んでするのは、まだ夢を諦めきれてないからだと思う。だってさ、一人暮らしなんて、別に毎日料理しなくても出来ちゃうわけじゃん。コンビニなんてどこにでもあるし、金がないなら、ちょっと良くないことかもしんないけど、誰かに奢ってもらうこともできるわけだしさ」

「……確かに、そうだな」

 その通りだ。ましてやここは東京だし、食事をする方法なんて本当にいくらでもある。

「だろ? あいつはさ、料理が好きがなくせに、本当はその料理の中でもスイーツを作りたいって本気で思ってるくせに、わざと作ってないんだよ。作ろうとしたら母親のことを思い出すし、諦めた夢のことを考えちまうから。

 本当は諦めきれてないのに、プライドが許さないんだよ。あの毒親に金を払わせるのだけは。自分のことを裏切った母親に、金なんて絶対に払わせたくないんだよ。

それになにより、もう一度信じようとしたら、また裏切られるんじゃないかって思ってる。

 ――あいつはたぶん、華龍の中じゃあ断トツで、裏切られるのに脅えてる。

 何かを期待したら、裏切られるんじゃないかってずっとどこかで想ってる。そう思ってるから、あいつは好き好んで自分の話をしないし、俺らとも深く関わろうとしない。まぁ何か聞かれたら、ある程度はちゃんと答えるけどな? ……答えないと余計深く探られる可能性があるし、あいつはそういうの嫌いだから。

 ……あいつは基本、俺と廉の口喧嘩にツッコミを入れるるような奴じゃん。自分から話をふらないで。それはたぶん、話を降って無視されるのが怖いから。俺らは幹部同士だし、そんなことはないに決まってるのに、あいつはそう考えてんだよ。傷つくのをめちゃくちゃ恐れてる」

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