小説家の妻が溺愛している夫をネタにしてるのがバレまして…
それからどれくらい経っただろうか。


最近、寝不足続きで疲れもピークだった。
睡眠は今の私にとって最高のご褒美…。


頬を撫ぜるそよ風が気持ちいい。
頭も一緒にナデナデされて……優しくて………温かくて……。


(誰かに撫でられてるみたい……)


………ん?


未だ瞑っている重たい目蓋を、ゆっくりと頑張って開ける。


そして目の前に広がる光景に私は過去1で、最高潮に焦った。


「い…くと…くん…?」


おかしい。おかしいおかしいおかしい。

私はリクライニングチェアで仮眠をとったはず…。

なんで今、私はベッドで寝てて、頭を撫でて甘やかされて、溺愛している私の夫郁人くんは…


「それ…読んでるの…?」


「うん」


(え…っと…? 夢…? 現実? とにかく私…)



自害しようかな???


「ものすごく泣けるし、ものすごく面白いし……あと…」

「…………」

「……ものすごく…えっちぃね」



人生終わりました。

来世に期待ということでサヨナラバイバイ♪



なんて思っていても、変な汗をかくし、変に心臓はバクバクと音を立てるし……。


そこで郁人くんは訊いてきた。


「これ、詩乃ちゃんが書いた小説?」

「うっ……」

「………この小説に出てくる男……衣玖斗って僕のこと?」


『はい、そうです。』と簡単に言えるわけないの、わかってて質問してますか?という視線を郁人くんに送る。


「郁人くんは…お仕事終わったの?」

「うん」

「お疲れ様…! 晩ご飯は私が作るよ…!」


精一杯の話題転換も虚しく、郁人くんはベッドに座りながら小説から眼を離さない。


(むり…耐えられない…)


早くこの空気感から逃げ出したくて、作り笑いを浮かべながら私は立ち上がった。
出て行ってしまおう…。
読みたい分だけ読んでください…。


離婚と言われたら泣く…。


なんて気持ちを抱えながら重い足取りで歩いた。


「詩乃ちゃん」

「…っ……はい…」

「晩ご飯は僕が作るよ。」


変わらない笑顔を浮かべる郁人くん。

………ヒいてない…?

いや、そんなわけがない。実の夫と同じ名前でこんな妄想を公(おおやけ)に発信してるなんて私が夫だったら絶対に『え?』ってなる。


「……えっと…でも、いつも作ってもらってばっかりじゃ悪いし。」

「そんなことないよ。今日は僕が時短で美味しい簡単な料理を振る舞うね。……だからさ」


そう言って郁人くんは本を閉じてベッドから立ち上がった。顔を真っ直ぐに見れない私は彼の足元ばかり見て、言葉の続きを固唾を飲んで待つ。


「……『だから』…なに…?」

「………詩乃ちゃん」



「僕とのエッチをネタにするなら、僕をもっと知らないとね? ………今すぐ脱いで…」
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