イケメン従者とおぶた姫。
そして、遂にタイジュは自分がしたかった相談を持ちかけてきた。


「で、本題なんだけど。知っての通り俺、彼女…ヒマリっていうんだけど彼女の事好きなんだわ。そりゃ、嫁にしたいくらいな。」

「…信じられない話ですけど、話聞いててそうなんだなって思いました。今も、実感ないですけど。」


心の中で、あまりに二人が不釣り合い過ぎてと付け足しながら、ゴウランは正直な気持ちをやんわり伝えた。

すると


「友達になったんだし、何よりタメなんだからタメ口でいいよ。敬語は業務の時だけで勘弁。
実は、硬っ苦しいのちょっと苦手なんだ。
…って、言ってもお互いの立場もあるし友達になったばかりだから難しいとは思うけど。
徐々に、な?」

と、タイジュは気さくに笑いかけてきた。

昔のタイジュと関わった事はないが、今目の前にいる裏表のない好青年にゴウランは好感を持った。


「でさ。彼女に過去自分のしてきた事を話して反省してる事も言ったし、彼女に心から謝った。そして、自分がハマった漫画の話をしたりしてさ。
徐々に、彼女との距離も近づいて、彼女といる時間は自分を曝け出せる数少ない場だったし、何より一緒にいて気が楽だった。

俺の話でおかしなところがあれば、ズバッと言うのも彼女と俺の親友くらいで。
それで、お互いの意見の食い違いからぶつかり合って喧嘩もするけど。ムカつく事もあるけど、許せちゃうんだよなぁ。」

ここで、ゴウランは驚いた。


「…え?ヒマリさん、怒る事あるんですか?タイジュ王子に?あんなに大人しそうなのに。」

「ビックリするだろ?ヒマリは、コミュ障だし人見知りだけど中身は猛獣だぜ?
気に入らない奴とか、ムカつく奴見ると、心の中でボコボコにやっつけてるって言ってた。

それに、ヒマリは心を許した相手にはいっぱい喋るし、実は明るくて面白い子だよ。」

そう話すタイジュは、とても楽しそうでゴウランはやっぱり羨ましく感じた。

でも、やっぱりやっぱりカノジョや嫁にするなら美人がいいなぁ、平凡とかましてやブスなんて絶対に嫌だ!って、本音もあり


「けど、カノジョや嫁にするなら才色兼備が良くないですか?遊ぶだけなら、美人ってだけでいいですけど。」

って、聞くとタイジュは面白そうにゴウランを見て


「俺もそう思う。ヒマリの前では言えないけど、歴代のカノジョ達はみんな才色兼備そのものだったし。」

とは、言うが…その才色兼備のカノジョ達もタイジュと悪友達と一緒になって、ヒマリをターゲットにして遊んで馬鹿にしてたんだろ?

って事は…


「性格は調子こきのクソだったけどな。
俺の前では器量好しの甘え上手。いい子ちゃんだったから、付き合ってた時は分からなかったけど。俺がカノジョ達の事を知ろうともしなかったし、ブランド感覚で側に置いてた。あと性欲処理な。」


…うわぁ…

俺が言うのもなんだけど最低だ

大勢のセフレ作ったり、一晩限りの関係持ってた俺も似たり寄ったりか

なんて、自分とタイジュの過去の女性関係に改めて、とんでもないクズだよなぁ〜って、ズーンと凹んでいると


「ああ、そういえば、俺が人間不信になって俺の周りの奴らを調べさせた事あったって言ったろ?そしたら、面白い事が分かってさ。」

タイジュは、何かを思い出したかの様に話し始めた。


「俺の歴代のカノジョ達は容姿も家柄も良くて、結構何でもこなせちゃう優秀ちゃんばかりだったから人を見下してターゲットを見つけては虐めてたコも多かったらしい。

あと、中には俺の悪友とか別のイケメンと浮気してたコ達もいたし、凄いコなんて見た目が純情清楚系なんだけど裏では乱行とかドラッグやってるコもいたりして。

俺も女見る目がないなぁって思ったよ。って、言っても、相手は見た目と器量で選んでたし、何より俺自身が最低最悪のクズだったからまさに同類は共を呼ぶ、同じ穴の狢ってやつだったんだろな。

けど、その真実を知って自分の事は棚上げで、更に人間不信に拍車がかかったとか甘ちゃん過ぎて笑っちゃうだろ?」


と、自傷して苦笑いしてるタイジュを見て、ゴウランはかつて本気で好きになって夢中になっていたミミの事を思い出していた。

タイジュは、歴代カノジョ達に本気ではない様子だが、それでも浮気という裏切り行為は抉る様な深い傷を残すものだ。
相手の事が好きであればある程、それは酷い傷と共にとてつもないトラウマも植え付けられてしまう。

ミミの事は、もう恋愛対象として見れないどころか今では嫌悪さえ感じるが、本気だった分ゴウランの心の傷は相当深く残っている。

だからなのか、たまにミミの裏切りと裏の顔を知り酷く傷付いた時の事を思い出す事がある。

その度に、酷い嫌悪と憎悪がぐちゃぐちゃに入り混じりどうしようもない気持ちに駆られる。


「その話した時も、ヒマリに心にグッサリ刺さる事をバンバン言われたなぁ。キレると怖いからな、ヒマリ。」

と、その時の事を思い出しているのだろう、眉を八の字にさせ参ったように笑っていたが何だか楽しげだ。


「…で、ヒマリと一緒に居たくて、何かと理由をつけては連絡取ったり会ったりして過ごしてて、やっぱり好きだなぁって思った。
今までの事は、過去に戻ってやり直すなんてできないからどうしようもないけど。

変わりたいって思った。

ヒマリに認めてもらえる様ないい男になりたくて、今までにないくらいメチャクチャ頑張ってる最中。

そして、ヒマリを口説いてる最中で“ワタクシにリアルは無理でござる!”“それに、タイジュ王子の今までが今までに信用なりまぜぬぞ!!”って、惨敗中。」


って、悪戯っぽく笑ったタイジュは、とても過去悪さをしてた最低最悪のクズには見えなかった。

そして、タイジュの“変わりたい”って思う気持ちが一緒な事、“変わる為に努力している”事に、ゴウランはとても共感を持てた。


「いや、ファミリーの日にタイジュ王子と…一緒にいた女性が多分ヒマリさんなんでしょうが。とても、仲のいいカップルに見えましたよ?」

その時の様子を思い出し、ゴウランが言うと


「…あ〜、う〜ん。なんて言うのかな?
俺は俺の今までがあるから、進撃に自分の気持ちに嘘偽りなくヒマリに迫ってるだけ。

ヒマリが、あんな態度なのはヒマリが言うには“イケメンに口説かれたら、誰だって夢見心地になってしまう不可抗力ですぞ!”“しかも、今のタイジュ王子がワタクシの【推しのキャラ】に似ているから”だそうだ。

けど、そこでラッキーだって思った。だって、幸か不幸かヒマリの【推し】に似てるんだったら、それって大きな武器になるだろ?

だから、俺はそれを最大限に活かしてヒマリを口説き落とすって決めた。」


って、事はヒマリさんの推しのキャラクターがいる漫画を参考にして熱心に読み漁ってるって事だよな?

そこまでするか?

けど、そこまで本気になれる相手がいていいなぁ…根暗ブスだけど


と、ゴウランは羨ましいと同時に、相手に失礼な事も考えてしまっていた。


「その甲斐もあって、多分だけどヒマリも俺を意識してる感じがあるんだ。俺を拒む理由も

“自分のようなポンコツとタイジュ王子の様なモテモテ王子とでは釣り合いませぬ!”

“まさに月とスッポン…否!美しい深緑世界とドブ”

“それに、ワタクシは今の生活に満足しております。ワタクシには、ワタクシの世界がありまする。それを変えるつもりはございませんので、どうかタイジュ王子に相応しい女性をお選び下さいませ。”

って、感じで俺をアイドルみたいに眩しそうに見ながら告白をして振ってきた。

“確かに、タイジュ王子と恋人…想像だけは、無数にしております。今やワタクシの一番の推しは、タイジュ王子でございます。

ですが、現実となると違うのです。
なので、ワタクシは決めたのです!ワタクシはタイジュ王子の一番のファンになると!タイジュ王子を推して応援すると!!”

なんて、目をキラキラさせてさ…興奮してんだよ。ヒマリは、俺を推し活動して妄想に浸りたい。俺は、ヒマリとリアル(現実)で恋人…結婚したい。ずっと一緒にいたい。

どうするよ、これ。」


と、頭を抱える新しい友達に、ゴウランは両思いなのに拗れてんなぁと苦笑いするしかなかったが…こういう可能性もないか?と、別の想定が頭に浮かんだ。

これをタイジュ王子に言うのは、さすがにできないけど


タイジュ王子は、お互い両思いの体で話してるがそれはタイジュ自身モテモテだし王子という地位もあり振られた経験も相手にされないって経験もない。
自分が恋愛対象或いは性の対象、特別な対象として見られるのが当たり前過ぎて、恋愛対象にされてないなんて夢にも思ってないって可能性もある。

あと、タイジュ王子には申し訳ないが、前を向く事はいい事だと思うけど、虐めてた相手に今までの事を打ち明けて自分だけスッキリした気持ちになってないだろうか?

あれは、サクラがシルバーとして正体を隠して旅をしていた頃だったか。
今までの事を反省したというミオが、人気が少なくなった時を見計らいショウの前に行き


『…ねえ。今まで、あんたの事何にも役に立たない気持ち悪いデブス。出来損ないの用なし。消えればいいのにとか、みんなで悪く言ってた。悪かった。』

と、言った後

「…ハァ〜!スッキリした。言えて良かった。気持ちが楽になった。」

そう言って、スッキリしたいい顔でショウの元を去って行った時があった。

その時、ゴウランはその場に居合わせていたのだが、その光景は見ていて気持ちのいいものではなかった。

何故なら、最初こそしおらしい言葉でショウに近づいたミオであったが、それは最初だけ。

その後からは、今までの事を謝っている筈のミオの態度は威圧的で、喋り方や声の出し方もショウを見下して嘲笑いながら言っている。
謝る内容も、謝ってるようで何か違う。

とても、謝っているようには見えなかった。

なのに、ミオ本人は自分はとてもいい事をしたかの様な生まれ変わったかの様な…
まるで、自分は聖人にでもなったかの様に清々しそうにしていた。

…だが、言われた方のショウは

かなり傷つき、酷い屈辱を味わったかの様な絶望的な表情をしていた。その姿が、ゴウランの目に焼き付き離れない。
それから、ショウは前にも増してミオに苦手意識を持ち避けるようになった。

けど、ミオはそんな事にも気付いてないらしくというか、気にもとめていないのだろう。
ミオだけスッキリし、ショウに更に屈辱という酷い傷をつけただけに終わったのを覚えている。

そんな事もあり、下手な事をすればかえってショウを傷付けるだけだと知り、ゴウランは謝って詫びたい気持ちをグッと堪え未だショウに謝る事も償う事も何も出来ずもやもやしている。

これは、とてもデリケートな問題で自己満足で済まされる事などではない。決して許される事でもない。

タイジュの話を聞いていて、そんな最悪な光景がフラッシュバックし憂鬱な気持ちになったゴウランだった。


…それに、リアルは無理だというヒマリさんは、そう思わざる得ない深い闇を抱えてるかもしれない。単に、それはヒマリさんの性癖なだけかもしれないし。

こんなの友達になったばかりのタイジュには言えないし、友達といえど身分の差があり下手な事は言えない。


「俺の恋愛相談は今日の所はこれで終わり。
で、話は変わるんだけど。
今日のゴウランのトレーニングメニュー見て、なかなか練られてるし練習の一つ一つが指先まで神経が研ぎ澄まされてる気がして凄いって思った。
そのトレーニングメニューって、ゴウランが自分で考えたやつ?それとも、専属の先生がいるの?」

と、興味あり気に聞いてきた。

だから、ゴウランは正直にまだ正式ではないけど(仮)師匠のオブシディアンの話をした。

それにあたり、どういう経緯でサクラ、オブシディアン、シープ、ロゼ(猫?)がチームに加わったのか説明もしなければならず

その話を聞いて、タイジュは驚きで目をまん丸くしていた。


「旅の始めから、護衛がゴウランとミオって女子二人がいてメイドまでいた?
…おかしくないか?旅の始まりは護衛一人な筈だしメイドのいるチームなんて聞いた事ないぞ?」

と、驚きを隠せないタイジュに、ゴウランは都合悪そうに


「…それは、周りの大人達に王子・姫達の中で一番優秀だって聞かされてきた俺とヨウコウ様だったから。【自分達は特別】だって王様にも目を掛けられて特別扱いされてるって思って疑わなかったんだ。」

それを聞いてタイジュは、ああ、なるほどと思った。自分もそうだったが、周りの大人達が大人達にとって都合のいい将来を見据えて自分の利益の為に媚びをうってきていたんだろう。

それで、調子に乗ってしまった訳だ。

そして、サクラ達がチームに入って来た事まで聞き、何故ここまでヨウコウチームだけエコ贔屓されてるのかガッテンできてしまった。

何より、ゴウランのチームにサクラがいる時点でもうおかしいのだ。

サクラの性格を考えると、絶対にヨウコウのチームなんかに参加しない。ヨウコウじゃなくても誰の指図も受けないだろう。

なるほど、そういう事な。

と、小さく笑って


「俺の一番末っ子がお世話になってるな。」

なんて、ゴウランに言ってきた。それに対してゴウランは、確かにヨウコウ様は兄弟では一番末っ子って事になるかと思ったのだが


「有名な話だけど、商工王は俺達の事は自分の子供だって思ってない。それは、本当の話で世継ぎを残す為だけに俺達は作られた。

商工王がどういった理由で、そんな制度を作ったかは分からない。だから、頑なに正妻、側室は作らない。独身を貫くって言って聞かなかったのは有名な話だし。

だけど、商工王の優秀なDNA、世継ぎを残す為に強制、強要されたって事だけは分かる。

ぶっちゃけ、血の繋がりはあっても後継者争いで兄弟達も兄弟なんて思っちゃいない奴が殆どだろうな。俺もそうだし。」

なんて、悲しい話を何事もないように簡単に言うタイジュが可哀想に思えた。
…もちろん、商工王も…


「…末っ子って言ったのは、俺の単なる嫉妬と嫌味だけどな。」

と、言ったタイジュに、ゴウランは根深い王族ならではの闇を少しだけ覗き見た気がした。

だが、何故末っ子のヨウコウ王子に嫉妬するのか、そこは大きな謎で


「…タイジュ王子達とあまり変わりない状況だと思うのですが、何故、ヨウコウ王子に嫉妬を?」

と、どうも納得できないゴウランは、思い切ってタイジュに質問してみた。

すると、タイジュは…え?!!という顔をして


「…もしかして、気が付かないまま一緒に旅してた?」

と、とても驚いた表情をしてゴウランを凝視していた。


「…それとも、単に気付きたくなかっただけの事か?今までなら、気付けなくて当然だけど。今のゴウラン君なら、何となく気付けてると思ってるんだけど。」

と、言うタイジュの遠回しな言い方に、ゴウランの頭の中に何故かショウの顔が浮かんできた。

その様子を見て、タイジュは


「…多分、ゴウラン君が何となく思い当たる子が居ると思うけど、それで合ってると思う。
おそらくだけど、その子が末っ子の姫。そして、商工王が自分の子供だと唯一認める存在だよ。

だから、王位継承権・王族という血肉を争うドロドロの世界に巻き込みたくて世の中からその存在を隠してきたんだ。

これは、ただの俺の妄想と推測でしかないけど。

おそらく、商工王は本気で好きになった女性がいて、その女性を守るために何処かに隠して極秘で結婚していたのかもしれない。

もちろん、法的手続きをすれば彼女の存在がバレてしまうから、結婚は二人の気持ちだけだと思うけど。その夫婦から生まれたのが末っ子姫。

ゴウラン君の話を聞く限り、末っ子姫は自分の事を一般人だと思ってるみたいだ。そういう風に聞かされて育ってきたんだろう。」


その話を聞いて、ゴウランの中で色々とチグハグだったピースがピタリとハマってしまった。


「そもそも、旅の最初に父親から持たされたっていう“王族のキー”(ブラックカードの様なものと身分を証明できる優れもの)を持ってた事自体おかしな話だよな。王族のキーって、どんなに地位が高くても持つ事さえ許されない。

そもそも、俺達王子や姫達だって持つ事は許されず、ましてや見た事もない。自分達にとって都市伝説みたいなもんだぜ?

それを持ってたあたり絶対におかしいよな。
でも、見下してるゴミクズとしか思えない下等生物がそれを持ってた事に腹が立つし、立場が万能優秀な俺様達より、実はゴミクズの方がずっと上だって認めたくないもんな。そこは分かる気がする。

これは、絶対何かの間違いだ。ある筈がない。って、現実逃避して、何か悪い事があるんじゃないかって可能性を無理矢理に想定してこじ付けて、更に虐めがエスカレートって感じか?」


と、タイジュ王子の想像・想定が、当時の自分達の心理や行動をそのまま言い当てられてしまいゴウランは、複雑な気持ちと共にズキズキと心が痛んだ。

今なら思える。ショウには本当に、申し訳ない事をしたと。もう、言い訳も何もできない。それしか言えない。

だけど、嫌々とはいえ幼少期から近くでヨウコウを見てきたゴウランは複雑なものがあった。王子や姫達の置かれた境遇が可哀想で、親の愛に飢えているのだ。

だが、ショウはそんな兄弟達の事など知らず、両親の愛を一心に受け悠々自適に暮らしていたんだろう。

なのに、何故かタイジュはショウに嫉妬こそすれど悪くは言わない。不思議だ、人間ができてるんだろうか?…いや、元クズなくらいだから、それはないか。
じゃあ、脱クズを抜け出す為に、いい方向に考えようと努力してる感じか?

人それぞれの考え方や価値観ってのは分かるけど、タイジュの話を聞いてる限りタイジュはショウの事を妬みそうなもんだけど。


「少し、いいですか?」

「ん?」

「…その、タイジュ王子はショウの事を恨んだり妬んだりはしないんですか?」

と、いうゴウランにタイジュは小さく笑って


「全然って言ったら嘘になるけど、それはないな。あと、友達なんだし“王子”や“様”付けは無しな。呼び捨てか、呼び捨てができなかったら“君”でお願いしたい。…友達なのに、距離を感じて寂しくなる。」

そう言ってから、タイジュは本題に入った。


「これは、あまり他の人には言わないでほしいけど。俺が城外で悪い遊びをしてた時の話な。俺がよく遊びに行ってたクラブで

『私が商工王の筆下ろしをした』

って言う、高級風俗経営の美女がいてさ。

『私のテクニックのおかげで、商工王は大の女好きになってうちの常連よ。
本当、いい男だから商売だってのに、商工王にメロメロになって帰ってくるコが多くてね。本気になっちゃうコも多いから経営側からして困っちゃうよ。』
 
って、さも自分が商工王と親密な関係で、商工王に女の良さを教えたのは自分だって、よく自慢してたよ。実際、もう熟女だってのに未だ、彼女の美貌と性技の虜になる客は後を絶たないらしいから信憑性はあったんだけど。

けど、実際には違ってたみたいだ。

内容もかなり酷いものだった。

ここからは、俺の両親やヒマリからの情報な。

その当時の王子達は、幼稚園の頃から知識的に性教育させられてたらしい。そして、7歳の誕生日の時に手だれたその手のプロの美女によって実践の性教育が始まる。

今じゃ、考えられない話だ。

その当時の商工王は、城を抜け出しては魔物の討伐したり遊んだりと手のつけられないくらいヤンチャな子供だったらしい。

でも、勉強にも熱心で知識も相当なものだった。けど、まだ幼稚園なうえ異性や恋愛事より元気に走り回る方が楽しい商工王は、性教育だけは興味も無くて適当に授業を受けてたらしい。

なんでも、授業の写真や映像を見せられて、大人の女性器、男性器を見せられて、あまりのグロさに吐いてしまった事もあったみたいだ。

そして、7歳の誕生日商工王の性教育の実践が始まった時、商工王は嫌だと泣いて逃げ回ってたらしい。それを大人達が取り押さえてやめてと泣き叫ぶ商工王を押さえつけて無理矢理行為をさせられた。」


…ドクン…!

…ハ?…え?

小学生になったばかりの子供を無理矢理そんな…犯罪もいい所じゃないか

あまりに、酷い…

とゴウランは、心苦しい耳を塞ぎたくなる様な痛々しい悲痛な気持ちと、周りの大人達や城の制度に対する悍ましい内容に怒りが込み上げてきた。


「もちろん、商工王だけじゃない。その当時までの王子達が通ってきた道だ。
それまで、姫は後継者の権利さえ無かったから処女で、都合のいい華族や貴族の元へ嫁に出されてたらしい。

その当時まで、その酷い様が当たり前の事で殆どの王子がみんな『嫌だ、誰か助けて』って、泣き叫んでた。それがうるさいって事で、口を塞がれてそれは行われていたみたいだ。」


…そんな事が許されるなんて…

あまりに…

…ズキ…

「そこで、商工王は決心した。

“何が何でも、自分が王となりこんな馬鹿げた制度を廃止してやる!そもそも、男女差別もおかしい。才能は男も女も関係ない。

それに、王の子だからといって、その子供が王に相応しく育つとは限らない。

ならば、俺は結婚しない。

どうしても、国の繁栄の為に俺の子孫が必要なら、選りすぐりの女をよこせ。もちろん、強制はするな。

女達への条件は【子供ができて出産したら、生まれた子供には一切関わらない他人となる。子供ができた時点で俺と城とは縁を切る。城での出来事は絶対に口外しない事。
代わりに、一年は遊んで暮らせるくらいの報奨金と望みがあれば、一番下位ではあるが貴族の地位も与えよう】そんな条件を受け入れられる女を選べ。

本当の親でも、酷い毒親は腐る程いる。
本当の親と一緒に居ても不幸な子供達をたくさん見てきた。

…俺は、きっと自分の子供ができても愛せない。自分の子供として見れないだろう。だから、とんでもない毒親になる可能性がある。
…どう考えても俺には無理だ。抵抗しかない。

そんな俺が、父親なんて可哀想なだけだし、子供を産んだ女達が城に残れば女達の欲の為に子供達は生死と隣り合わせの地獄を味わう事になるだろう。全ての人間が敵かの様な恐ろしい生活が待っている。

僅かな自由さえない、大人達の都合のいい操り人形、道具にされてしまうだろう。

俺は、いくら愛せ無くても自分の子供と認められなくても子供達には、そんな地獄を味わってほしくない。

ならば、子供が欲しいと願うも子宝に恵まてない里親を探し、愛情を持って育ててもらった方がずっと幸せに思う。
入念な審査ののち選ばれた里親にはある程度の地位を与えよう。
そして、国の存続の為に犠牲になって生まれた子供達に俺のせめてもの償いだ。温かい家族の中で育ってほしいと心から願う。

そして、俺の血を引く者だけでない。きっと、周りには優秀な将来の王候補達がいるだろう。

だから、俺の血を引く子供だけでなく女男も関係なく全ての王族の子供達にチャンスを与えたい。

そして、王族でなくても一般人だろうが、それに値する人物にもチャンスを与えたいと考えている。その為に、一般人をチームに加え王位継承権の旅をさせる。

今、俺ができる事はこれくらいだ。

これでも、クソだぬきジジイ共にかなりの反発を食らって黙らせるのに時間は掛かったが。”


そういう事があって、今に至るらしい。

商工王は、古くからの国の酷い習わしや悪習と戦いながら、俺達の事もしっかり考えて守ってくれていたんだ。

そんな話を聞いたらさ。憎むどころか、感謝しかないよな。

だけど、そんな商工王の気持ちも知らず…知ろうともしないで

“何で自分ばかり”なんて悲観的になってる奴とか、“自分は王の子供だ、里親なんてウザい”って、里親を蔑ろにしてる奴とか…色々いるみたいだけど

俺も“自分は王の息子だ!頑張れば、王は俺を息子として迎えに来てくれる筈だ”とか、一時期思ってた時もあったな。

事実を知った今となっては、絶対に無い話だって分かるけど。そして、その話を知ってから、ずっと俺を大事に育ててくれてる両親に感謝する事ができた。

少なくとも、俺の両親(里親)は俺の事を本当の子供の様に、大切に育ててくれてるんだ。親孝行したいなって思うよ。

…あ、そういえば、ダイヤ王子とちょっと里親について話した事あったけど、ダイヤ王子の言葉で両親を見る目が変わったよ。

ダイヤ王子は

“いくら血の繋がりが無くたって、俺が親だって思えば親なんだし、親が俺の事を子供だって思えば子供だろ?

確かに血の繋がりも大事だけどさ!

お互いに、どう思ってるかそれが一番大事なんじゃね?視野を広げて見ればさ。色んな事情の色んな家族がいて、血が繋がってるからって幸せとは限らない。

俺は、めちゃくちゃ幸せだぜ?

だって、両親がいて俺を自分達の子供だって、大事に育ててくれてる。母上は怒らせると、めっちゃ怖いけど悪い事は悪い。いい事したら褒めてくれる。

一緒にご飯食べて、たわいもない話してさ。

そんな何気ない平凡な日々が送れるって幸せな事じゃないか?

俺の家族、最高って思ってるぜ!感謝してもしきれないくらい幸せだ。”

って、言われた時、目から鱗だった。マジで…
そこから、俺はダイヤ王子をリスペクトする様になったんだよな。

俺のなりたい理想像がダイヤ王子。」


って、笑ったタイジュは年相応に見えた。

そういえば、タイジュ王子…あ、タイジュさん?…タイジュ君か。…ハハ、慣れねー

つーか、ダイヤ王子ってヨウコウ王子と同い年ってか、よく考えたらヨウコウ様よりダイヤ王子の方が誕生日遅かったっけ?

タイジュ君の言う末っ子って、そこから間違えてたな、俺…ハハ…

それに、年下をリスペクトとか…ヨウコウ様じゃ考えられないな

ヨウコウ様なら、年上の余を敬うのが当たり前だくらいに言いそうだ


なんて、考えていると


「それにしてもだ。どうして、王が箸も自分で持った事もないような愛娘を旅に出したのか気になるけど。
それよりも不可解なのが、あのサクラがショウを溺愛してるって事だ。想像もつかない。

それに、聞けば聞くほどショウは謎に包まれてる気がしてならない。」

そう考え込むタイジュに、ゴウランは頭が追いつかなかった。

…え?

サクラに溺愛されてる、ただの甘ったれな超絶デブなお嬢様…姫だろ?

くらいにしか思えなかった。


「…だって、おかしいだろ?あの魔獣や妖獣だらけ、しかも災害レベルの天候が多いビーストキングダムでショウがいた時は、大した事無かったし魔獣や妖獣も大人しかった。

なのに、ショウを置き去りにしてショウ抜きで旅をしてからは災害レベルの天候に見舞われ、魔獣達もかなりの数が現れ理性を失い凶暴化。…いや、普通がそれなんだけどな。俺達がビーストキングダムを旅した時もそんな感じで命からがらだったし。

ショウが一緒の時の方が異常なんだよ。」

と、言われて、ようやくゴウランも


…あ、確かに言われてみればそうかもしれない

タイジュ君に言われるまで、たまたまだって気にも留めてなかったが…え?


「それに聞いてたら、たまたま偶然にできないような奇跡まで起きてる。

…なあ?ショウって、一体何者なんだ?
ダイヤ王子と一時一緒に旅してた時も、ショウの事をダイヤ王子が気にかけてたってのも気になる。

もしかしたら、そこでダイヤ王子はショウの何かとんでもない秘密を知ったんじゃないか?

かなり、気になるな。

…ダイヤ王子の事だから、単にいい人過ぎてお節介焼いてただけかもしれないけど。


…なあ。会わせてくれないか?ショウに。
会って確かめてみたい。その間、俺のチームと一緒に旅する事になるけど、お願いできないか?」


と、頼まれて、まさか王子の頼みを断る事もいかないしと、ヨウコウ様が許してくれたらという条件でタイジュが納得するまでタイジュチームと一緒に行動を共にする事となったのだった。

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