イケメン従者とおぶた姫。
さて、あれから5分以上は経っただろうか?

サクラは、徐々に周りの様子が見えてきたらしく何かがおかしい事に気付き始めたのだろう。


「…あ…れ?」


と、ゆっくりと周りを見渡し何度か瞬きを繰り返した後、ガッカリと肩を落としてしまった。と、同時にサクラは何かを思い出したようで


「…どうなってるんだ?さっきまで、野蛮な宴会が…??あの女達は??」


慌てたように自分の身を守るかのようにギュッと体を縮めた。そんなサクラの様子を見てリュウキは


「…そんなに警戒しなくても大丈夫だ。
アイツらは帰した。」


バツが悪そうにサクラに近づいてきた。そんなリュウキをサクラはギッと睨み付け疑わしそうにリュウキを見た。


「体の方は大丈夫か?どこか異変はないか?」


リュウキは、それにお構いなくサクラの前までくるとサクラと向き合う形にドカリと座った。

サクラは、フーフーと毛並みを逆立てて威嚇する獣のようにリュウキを恐れ警戒していた。それをジッとリュウキは見て


「…言い訳するつもりはないが、今回の事でこれほどお前に恐怖心を与えるとは思ってなかった。すまなかった。
今後は、一切お前に無理矢理女を当てがう事はしない。約束しよう。」


と、言ってきた。頭を下げる事はしなかったが。


「ところで、お前…体は大丈夫なのか?」


リュウキに問われ、サクラは何の事かと不思議そうな顔でリュウキを見た。
気がつけば、リュウキの後ろに白い上級魔法衣を着た魔法使い…いや、魔道士が立っていた。


「…宴会の最中、サクラしゃまが気を失い
宴会は中止となりましゅてな。」


と、お婆までいる。お婆は、サクラを労わるように優しく背中をさすってくれた。

いつも、自分が気を失った時は気がつけば、自室のベッドに寝かされてるって言うのに。

なぜ、今はこんな場所でしかも自分は座ったままいるのか。しかも、魔道士までいるって事は…いつもの気絶とは何か違っていたのだろうか?

サクラは、自分の置かれている状況を冷静に考えていた。


「特に異変はない。だが…」


サクラは、リュウキに問いに慎重に答えた。答えながら、あれ?と、自分の体の異変に気がついた。

みんな、サクラの次の言葉に真剣に耳を傾けている。きっと、これはただ事ではないのだろうとサクラは思った。


「…そういえば、何故か魔力が大きく消耗している。…特注の媚薬のせいか身体中が熱っぽいし怠い。全身…特に下半身に力が入らない。」


と、嫌味っぽくリュウキに向かってそうトゲトゲしく言ってやった。媚薬の言葉にお婆はキッとリュウキを睨み、リュウキはお婆からサッと目線を逸らした。しかし


「…おかしい話だな?あれは特注の媚薬。
即効性は抜群。どんな屈強な男も全身から力が抜け性的興奮を高める効果があるが、効果が切れるのもまた早いはず。
早ければ5分もすれば薬は完全に抜ける。」


なんて、リュウキは不思議そうにあの媚薬の効果について説明し


「あれから、すでに3時間は経っている。だから、薬のせいではないと思うんだが…?…え?サクラ、お前…今すげー気持ち良くなっちゃってんの?」


デリカシーのかけらも無いような言葉を掛けてきた。その言葉に、サクラはカッと顔を真っ赤にし…何やら心当たりがあるのだろう、もの凄く狼狽えている。

そこに


「あなたは気を失っている間、どこにいましたか?」


と、さっきまで黙って聞いていた魔道士が口を開きサクラに質問してきた。

気を失っている間にどこにいたかなんておかしな事を聞くとサクラは、頭がおかしいのか?コイツ…と、疑わし気に魔道士を見た。


「…では、質問をかえましょう。あなたは、どのような状況になって気を失ってしまったのですか?その時、体の感覚はどの様な感じがしましたか?」


初対面の相手に、何故そんな事を話さなければならないのか凄く嫌な気持ちだ。だが、隣ではお婆が大丈夫とうなづいてみせた。

なので、これは大切な事なのだろうとお婆を信用し正直に話した。


「宴会で、女達に体を触られ吐き気がする程嫌悪感を感じ、貞操の危機を感じ…恐怖した。その時、体が分解するような感覚っていうのか…同時に一瞬フワッとした浮遊感を感じた。」


その話を聞いて、魔道士をはじめみんな驚いている。なぜ、そんなに驚いているのか?


「…体が分解する感覚と言いましたが、痛みなどありましたか?」


「……?いや、そんなものは一切ないし、
感覚的に分解してると感じたに過ぎない。不快感もなかった。」


「その時の疲労感は?」


「…体力と魔力の消耗が激しかった。全力で短距離走を走ったような疲労感はあった。」


サクラの言葉に、みんな興味深々といった感じで、心配の割にどうも病人扱いされてない事が気にかかる。

そこに、リュウキが


「…なんか、引っかかるんだよな。」


と、あぐらをかいて座る自分の膝をトントン指で叩きながら負に落ちない顔をしていた。


「サクラ、お前。気を失っている間“夢”を見なかったか?」


そう、リュウキはサクラに聞いてきた。それに対し、サクラは何かを思い出したのだろう。一瞬、うっとり蕩けるような顔に変わったかと思うと、ハッと我に返り


「…夢は、見た。」


と、平静を装い答えてきた。


「…ほぉー?それは、どんな夢だった?」


リュウキは眼光鋭くサクラを見、質問をする。リュウキの醸し出す雰囲気に、みんな畏怖の念を感じピシリと凍り付いた。

普段ののらりくらりし体たらくな姿からは想像も出来ないほど大きな威圧感を感じる。


「…なんで、そんな事を話さなければならない。夢なんて、見ようと思って見れるもんじゃないだろ。」


そう反論したサクラに


「…例えば、ショウと一緒に気持ち良くなっちゃう夢とか?」


冗談っぽく笑い話すリュウキ。



…ゾクゥゥーーーー!!!?



口元は笑っているのに目が笑っていない。笑ってないどころか、今にもサクラを瞬殺しそうな殺気を立てている。

何故、こんなにも殺気立てて自分を見てくるのかサクラには分からなかった。

ただ、リュウキの全てを見透かしているかのような目に
夢の中身を覗かれたんじゃないかと一瞬疑い凍り付いたのは確かだ。冷静に考えてあり得ない話だと首を振るサクラ。


「…まあ、冗談はさて置き、お前の今後について俺はまた考えなければならないな。」


そう言って、リュウキは魔道士と共に宴会場を後にした。

残されたサクラとお婆は、あのピリピリとした緊張感から解放されてハァァ…と息を吐いた。

気の抜けたサクラは、体を楽に座り直し


「…お婆。俺が意識を失ってる間、何があった?何か、いつもと違うし魔道士まで来るなんて…」


と、お婆に尋ねた。


「すみましぇんが、詳しい話は口止めされていて話せましぇん。」


お婆は、キリッと表情を引き締めしっかりとした口調で話す事を拒んだ。

お婆が、こうなれば頑なに口を閉ざすのは知っている。そんな時は決まってリュウキの命令。しかも、自分もそれに賛同した内容に限っての事。

つもり、お婆はそれを重大な事と捉えているという事だ。それを無理矢理、聞き出すつもりはない。そこに、ショウが絡んでない限りは。


「仕事だから仕方ないな。
あと、みんな俺が気を失ってる時見た“夢”について知りたがってたけど。

お婆になら話すし、こんな話でいいんなら
クズ(リュウキ)と魔道士にお婆の口から教えて構わない。俺からは話すつもりはないが。」



サクラは、お婆を残しさっさとこの場を立ち去ったリュウキ達を見ておそらくそういう事だろうと思った。

フーと軽く息をはき、やれやれ仕方ないと言わんばかりにサクラは話し始めた。



「あの時、貞操の危機を感じた俺は心の中でひたすらショウ様に救いを求めた。ショウ様に会いたいって強く願った。
そしたら、体が細かく分解してショウ様を感じる所へ吸い込まれた。

気がついたら、俺の目の前に床に敷かれたボロボロの布団で眠っているショウ様の姿があった。

俺は、その姿を見て酷くショックを受けた。目眩を起こし倒れそうなくらいに。

ショウ様は…とてもやつれ風呂にも入ってないのか汚れ…泣いていたのか顔に涙の跡が残っていて、とても…とても可哀想な姿になっていた。

俺は、悲しくなって胸がギュッと締め付けられる思いがした。

だが、同時にこれは“夢”だと理解した。

こんな事あり得ない。ショウ様に会いたいと思っただけで会えるとか、“旅行”に行ってるはずのショウ様がこんな見すぼらしい生活してるなんて。

だが、これが例え夢であっても…ショウ様のこんな可哀想な姿…見たくなかった。最悪に悪い夢だ。」


その時の光景を思い出してか、サクラはグッと握り拳を作り辛そうに顔を歪めていた。


「…例え夢であっても、あまりの姿に俺は思わずショウ様を抱き締めようとした。
だが、さすが夢だなと思った。ショウ様に触れようとした手が…ショウ様の体をすり抜けた。何度触ろうとしても。

触れたいのに触れられない…すぐそこにショウ様がいるのに。

俺は凄く悲しくなって、でも諦めきれず全身に力を溜める様に集中してショウ様に触れてみると

微かにショウ様の感触を感じた。

少しでも気を抜けば触れられなくなってしまうが、集中すれば完全とまではいかなくてもショウ様を感じる事ができた。

だから、俺は集中してそっとショウ様を抱き締めた。

微かだが、久しぶりのショウ様を感じ感動で泣きたくなった。


すると、ショウ様は何か異変を感じたのだろう。目を開きかなり驚かれた様子で悲鳴をあげ……まあ、色々あったが。

お互いを認識した時

『…どうして、サクラがここにいるの?あ、あれ!?か、か、髪、どうしちゃったの?
なんで、裸なの?』

俺の姿を見て、ショウ様は酷く驚かれた事で自分が裸な事に気づき俺も驚いた。

あと、驚いた事に…服の中や建物が透けて見えた。そして、さりげなく壁に手をつこうとしたら…すり抜けてしまったし。

物を持とうとしても掴めなかった。

まるで、幽霊にでもなった気分だった。
でも、ショウ様には触れられた。…ショウ様は服を着ていたのは分かっていたが、服が透けて見えて…ショウ様が裸に見えた。

透け透けの服を着ている様に見えた。

触れれば…直接、肌に触れたような感覚がした。ショウ様が服を着ているにも関わらずだ。

同時に、近くに物凄く嫌な気配も感じた。胸糞悪く憎たらしいほどの…
その気配に俺が、それはどこにあるのか探ろうとした時。

…その時、ショウ様が俺の手に触れてきて
心配する言葉をかけて下さった。

そこで俺は、胸糞悪い気配の事は気にしないようにした。なにせ、夢なんだ。夢の時にまでこんな嫌な事…思い出したくもない。

そこからの事は……」



と、顔を赤らめ俯いてしまったサクラに、お婆はまさか!!?と、思い


「…つ、ついにお二人は結ばれ…」


と、心の声を口に出すと

サクラは、…え?といった表情でキョトンとした顔をし…お婆の言葉を理解するとカァ〜っと真っ赤にし


「お、お婆。夢の中とはいえ…さすがにそこまでは…」


なんて、サクラは苦笑いしたところでお婆はハッとし先走った考えをした自分が恥ずかしくなり顔を赤くした。


「確かに、今までずっと我慢したんだ。
夢なら許されるんじゃないかと思ったのも事実。だが

それ以上に、ショウ様の未熟な体とまだ幼い心を見たら、例え夢の中であろうがそんな無体はできないって思った。
せめて、ショウ様がもう少し大人になるまでは…な?」


サクラは、照れながらも困った様に笑っていた。

でも、やっぱり疑問がある。
ワープでサクラがこちらに戻って来た時、何故あんな…まるで情事を思わせるような様子だったのか。
下半身が重い、気怠いなど…それも未熟なワープの副作用なのか?
サクラの様子を見ていても、どうも違う気がしてならない。

お婆の様子に、サクラは


「…お婆、疑ってるか?けど、本当にそれはない。誓おう。
だが…き、キスはした。しかも、唇に!あと、やましい事と言ったら…他は…」


なんて、キスをしたと白状したサクラの焦りと慌てっぷりから

これは、深い口づけまではできてないなと、お婆はウブなサクラを生温かい目で見た。


「俺の心配から、徐々に俺の体に興味を持たれたショウ様が…俺の体に触れた事。」


その言葉に、お婆は、なぬぅっ!??という表情でサクラの顔を凝視した。


「…ま、ま、ましゃか、お嬢しゃまは、ついに…!!?」


お婆は、口元を隠しハワワ…と、興奮しながらサクラの次の言葉を待った。
まさか、こんな官能小説のような展開が待っているとはとドキドキしながら。

そのお婆の様子にサクラは、自分の言った言葉を思い返しお婆の考えている事が予測できたのだろう。


「…お、お婆!多分、お婆が思ってるのと違う!まったく違う。言っただろう?
ショウ様と結ばれてはいないと。」


と、慌ててサクラは弁解した。すると、お婆はあからさまに、つまらなそうな顔をし

思わず


「…なら、なぜに夢から覚めた時、あんな気持ち良さそーにしていたんでしゅか。」


と、ぼやいた。すると


「…バカ!お婆、俺にそこまで言わせるのか!?」


サクラは真っ赤かな顔を両手で覆い


「…笑うなよ?」


と、お婆に念を押すと


「…気持ち良くなってしまった…」


不貞腐れたように、サクラはソッポを向いてそう言った。


「…は?」


サクラは何を言っているのかと、お婆がポカーンとサクラを見ていると



「…だから、気持ち良くなってしまったんだ!ショウ様にその気はなくても
『ずっと、気になってたんだ。夢の中でしかこんな事できないし!』
なんて、お嬢様は俺の筋肉が気になっていたようで、凄いと興奮しながら腕の筋肉やら背中…腹…太もも…色々触ってきた。」


サクラの話を聞いていて、お婆はなるほどと納得してしまったがサクラは勢い付いたままヤケクソで話を続けた。


「…ショウ様に触れられた瞬間、最初こそこそばゆい感じで擽ったく感じていたが次第にその感覚が変化していき
全身から力が抜けフワフワした気持ちになった。時折感じる全身を巡るような心地よい痺れるような…何とも言えない感覚に襲われた。

それが次第に強くなってくると…また感覚に異変が出てきて…

…自分じゃないような妙な声も出るし、抑えようとしても抑えきれなくて…恥ずかしくて恥ずかしくて…」


その時の事を思い出してか、サクラは恥ずかしそうに両腕で頭を隠す様な仕草をし

お婆は、だんだんと話に興奮しドキドキしながら聞いていた。


「…頭も何も考えられなくなりそうな、それでいて沸騰しそうになって…
でも、ショウ様が俺の体に興味をもっている、喜んでいる、褒めてくださる、と、思ったら止める事もできず。」



ショウが喜んでくれるなら、自分の羞恥や屈辱さえ投げ捨てられるサクラにお婆は
前から思ってはいたが、サクラはショウが喜ぶならどんな事でもしそうだなと身震いしてしまった。

そういえば、ショウに従順過ぎるが為、過去サクラにとってかなり酷い出来事もあったなとお婆は思い出していた。



「…ただ、ショウ様に触れられているだけなのに…恥ずかしい話だが、絶頂状態にまでなってしまって…。
そしたら集中力が乱れ保てなくなり、ショウ様に触れる事も触れられる事もできなくなった。
同時に、体の分解が始まり全てがどこかに吸い込まれたと思ったら…夢から覚めていた。」



なるほど、それであんな状態で…と、お婆は恥ずかしがるサクラの背中をポンポン叩き慰めながら考えていた。

サクラの話を聞くとどうも夢とは思いにくいし、もしそれが夢でないなら…
ショウの事がとても気にかかる。


その話を陰から聞いていたリュウキは渋い顔をしながら、壁に寄りかかり腕組みした腕を指でトントン叩きながら何かを考えていた。


「…しかし、サクラの夢の話…隠密から得た情報とあまりに一致し過ぎている。」


そう、呟くと


「おそらく、王が考えている事はほぼほぼ確定かと。そして、王の判断は賢明だと思います。

あんなに未熟なワープはあまりに危険。

自分が使えると分かれば、すぐにでも使いたくなるでしょう。あの若者の状況を考えれば尚更。危険を顧みず使いそうだ。

ならば、いっその事その事実はなかった事にすればいい。

ワープを使えるなんて希少で勿体なくありますが…」


「…だが、物の中が透けて見えるとか集中しなければ触れられないってのは、ワープというよりホラーだな。」


「……確かに。これは推測ですが、ワープが不完全な為、もしかしたら幽体離脱にも似た現象が起きてしまったのではないかと。
ほとんど体の組織をここに残し、魂と微かな体の組織だけで目的の場所にたどり着いたのかもしれません。」


「……執念だな……。
それは、さて置き。気になるな。
サクラの言う“胸糞悪いおぞましい気配”とやらが…」


「…はい…」


「…しかし、サクラの話を聞けば聞くほど
サクラはド変態だな。
ショウが、首輪と鎖をプレゼントしたら喜んで身に付けそうだ。」


なんて、リュウキがボソリと呟いたが、これには魔道士は何も答えなかった。



「……アイツは、将来ショウの忠犬にでもなるつもりなんだろうか?」


「………………。」

「………………。」




次の日、リュウキに呼ばれたサクラは
いきなり言い渡されたリュウキの命令に驚きを隠せずいた。

放心状態のサクラに



「で?やるのか、やらないのか。」


リュウキは最終確認のための選択肢を迫った。


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