イケメン従者とおぶた姫。
さてさて、ショックで動けなくなったショウをメイド数名に部屋まで送らせたリュウキは、次にサクラを部屋に呼んだ。


そして、対面する形でソファーに座っているのだが



「…やれやれ。雇い主にする顔と態度じゃないな。」



と、自分の前に不機嫌ですオーラを隠す事なくドカリと座り、ムスッという表情の男
サクラに苦笑いしていた。



「話っていうのは、いくつかあってな。
まず、一つ目は。世間を勉強させる為に
明日からショウを世界一周“旅行”をさせる事にした。」



それに驚いたサクラは、目を大きく見開き



「…何をバカな!?今、世界は大変な事になっているというのに。
確かに、国の場所と地域によっては安全だが、何らかのトラブルに巻き込まれる事も考えられる。そんな危険な所に行くつもりは無い!ショウ様の身に何かあったらどうするんだ!」



それを聞いたリュウキは大きく口を開けアハハッ!と、豪快に笑った。その様子にサクラは、何がそんなにおかしいのかとムカつき
しかめっ面になった。



「なに、お前もショウと一緒に行く気になってるんだ?しかも、それが当たり前みたいに。“旅行”はショウ一人に行かせる。」



それを聞いたサクラは、思わず立ち上がり机をバン!と叩いた。



「ふざけるな!ショウ様は自分で何もできないんだぞ!?歯を磨く事も着替える事も!世間も知らないのに!
なのに、ショウ様一人に旅行させるなんて!俺が一緒ならまだしも。しかも、世界一周なんて馬鹿げている。
ありえない!俺は断固、反対だ!!絶対にだ!」



美しい顔を大いに歪めながら異議を唱えるサクラに、不適な笑みを浮かべリュウキは言った。



「だから、行かせるんだ。」



「…なっ!!?」



リュウキの言葉にサクラは耳を疑う。




「お前だって、ショウの世話を一生し続けるつもりはないだろ?
近いうちに、お前はショウの元を離れるだろう。なのにだ。
なのに、ショウのワガママが過ぎるのかお前が甘やかしすぎてるのか、ショウはお前無しには生きられない生活能力ゼロ人間になってしまった。お前が、ここから去るまでにお前に頼らなくても生きていける人間にしたいと思ったから“旅行”に出すんだ。」



そう言ってきたリュウキに対し、サクラは



「…何を言い出すかと思えば、そんな事か。」



と、腰まであるサラサラの長い髪をかきあげ、安心し力が抜けたように椅子に座った。



「それなら問題ない。
俺は生涯、ショウ様に仕えるし離れるつもりはない。
だから、そんな下らない理由でショウ様を“旅行”に出す必要はない。」



そんな事を当たり前のように話してきたサクラにリュウキは顔を顰め首を傾げる。


「お前には様々な輝かしい未来がある。趣味もあるだろう。将来の夢もあるだろう。
ましてや、お前も年頃の男だ。彼女の一人や二人欲しいだろうし遊びたい盛りだろう。
だが、このままだとお前の自由な時間は無いままだし未来も潰れてしまうんだぞ?」



「…ハア。話にならない。そんな下らない話なら、もういいだろ?」



サクラは、もう話は終わったとばかりに席を立った。



「…ったく、こんなバカらしい話に時間を潰されるなんて。」



とか、イライラ丸出しにボヤきながら。



「まだ、話は終わってないぞ?」



そう、リュウキに言われウンザリした顔をしながら




「ショウ様を一人、部屋に待たせてるんだ。早くしろ。」



更に、機嫌を悪くし渋々座った。



「そんなに怒るな。
ところで、お前は将来何の職に就きたいと思っているんだ?」




リュウキは、興味有り気にサクラに聞いた。

すると



「今の職で満足してるし、これ以上ない天職だと思っている。」



なんて、当たり前の様に答えてきた。

それには、リュウキも驚きを隠せず




「…いやいや、あり得ないだろ。
お前みたいな才能の塊が!お前なら、どの国においても軍の総帥にでも、スポーツ選手、その美貌を生かしてモデルや俳優にでも色々様々多様に未来の幅があるだろ!?
それを、住み込みで飲み食いはただとはいえ、給料なんて月々一般高校生の小遣い程度しか貰えない。

なのに、一日中あの醜い豚のワガママに付き合わされ世話し自分の自由な時間すらない。なんの特もないどころか、ただのブラックだろ?
そんな所に居るより、大金もいい女も自由な時間も何でも手に入る、皆が羨む職に就いた方がいいんじゃないか?

お前なら、それはいくらでも可能なんだぞ?」



サクラを捲し立てた。

その言葉に、サクラは額に血管を浮かび上がらせるほどイラつき
足と手を組んだ状態でリュウキをギッと睨んだ。



「何で、俺の将来をお前が決めつけるんだ。
それに、ショウ様を侮辱するのは絶対に許さない。絶対にだ!」



「…まあ、とりあえず今はそれでいいが。
俺だって、いつ破産するか分からないんだぞ?そうなったら、当たり前だが俺はお前を雇う事ができない。
もし、仮にだ。そんな日が来たら、それこそショウはどうなるんだ?

このままって訳にはいかないだろ?」



参ったなぁとリュウキは苦笑いした。
こうやって、サクラとしっかり話し合ったのはサクラがこの屋敷に来てすぐの時、数日間だけだ。

それから、面と向かって話した事が無かったので、話し合いでまさかこんなに苦戦するとは思って無かったし想像と全然違っていたのだ。


サクラだって、将来のある人間だ。そんな希望ある若者をこんな所に埋もれさせるつもりは元々ない。

実を言えば、大学まで卒業させたら自由にさせようと思っていたのだ。好きな道へ進めばいいと。

サクラが幼い頃、その事について何度か話してきたはずなのだが…。



「もし、そんな日が来たなら俺が稼いで
ショウ様を養う。」




サクラの頑な態度に驚きながらもリュウキは
やはり、“アレ”のせいかと思った。

そこで、リュウキは一番の本題を口にした。



「…まあ、あくまでも、それは“この世界”での話だ。」



リュウキは、気怠げに座っていた姿勢を正し貫禄有り気に座り直した。
その様子と話の内容が見えてきて、サクラはピリリと気を張らせた。



「10年以上前に、突如として“幻の国”と“精霊王”が、この世界に現れた。しかし、それ以降精霊王が姿を現さないというのは有名な話だ。

しかし、実際は違う。」



……!?



違うとは、どういう事なのかサクラはジッとリュウキの話に耳を傾ける。



「精霊王は、世界中で一番平和である我が王宮に来ては各国代表と話し合いをしている。

話の内容は、世界の滅びと幻の国との関係。
どうすれば、世界滅亡を防げるのかだ。

この事は、各国の王や権力、力を持った者達しか知らない事だ。」



それを聞いて、サクラの顔色が悪くなっていく。妙な汗もかき始めている。



「そこで、俺は面白い話を聞いた。
幻の国は、国などでは無い。もう一つの世界だと言う。

そこには、5つの大陸があり精霊達の住む王国がある。それぞれ、“火”“水”“風”“土”“空”とそれぞれの属性を持った精霊達で国が分かれていると。」



リュウキの話に、サクラの瞳は驚愕で酷く揺れている。



「その国によって、特徴があるらしいな。
例えば、火の王国の民は髪と瞳の色が赤く褐色の肌をし火の魔法を操るとか、水の王国の民は髪の色と目が青く肌の色も若干青みがかっていて水の魔法を操るとか。部分的に少しだけ肌に鱗の模様も入ってるらしいな。
髪や目、肌の色の濃さや色はみんな全く一緒などでは無く個人差があるとか。

そういえば、更に面白い話も聞いたな。
空の王国の民は美形が多く、特に王族は絵も言われぬほどに美しいらしいな。
空の民は、透き通る様な白い肌に白髪。目の色は、パステルカラーの空色。全体的に、色素が薄いのが特徴らしい。しかも、波動を操るらしいな。」



と、上から下までジロジロとサクラを見ると



「…あまりに一致し過ぎてるんだよなぁ。
角度によってブルーに輝く銀色の髪に、雪の様な白い肌、目の色はスカイブルー。
その他を寄せ付けない圧倒的な美貌と波動の力。

こんな特徴の人間、この世界中どこを見渡してもいない。

…なぁ、お前は一体何者なんだ?サクラ。」
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